NBAスキルトレーナーのドリュー・ハンレン氏:シュート力は他者と差をつけるもの
ジェイソン・テイタム(ボストン・セルティックス)らトップスターの技術指導をするコーチが来日し、ユース世代の選手たちに何が大切かを教えた
近年、注目のスキルトレーナーのドリュー・ハンレン氏が、アヴィ幸樹シェーファー(シーホース三河)らを輩出したクラブチーム・Tokyo Samuraiの招聘で来日し、ユース世代の選手たち向けのクリニックを開催した。
ジェイソン・テイタム(ボストン・セルティックス)やジョエル・エンビード(フィラデルフィア・セブンティーシクサーズ)など多くのNBAのクライアントを持つハンレン氏だが、今回の指導では若い世代向けの指導だったこともあって教える内容は基礎的なものが大半だった。
基礎的と言っても、たとえばドライブインではフィジカルに体を当てつつ、レイアップをする前には相手ディフェンダーにボールを叩かれないようにボールを高く保持したままそこからシュートへ移る、キャッチ・アンド・シュートによる3Pではパスをもらってからすぐに打てるようにボールを下げないといった、現代のバスケットボールに合わせたものが大半だった。
ゴールデンステート・ウォリアーズなどを中心に、NBAではすでにポジションごとの役割の違いが薄まっており、それを「シームレス・バスケットボール」などと呼んでいるが、ハンレン氏は今後、その傾向はますます強まり「選手たちはオフェンスでもディフェンスでも1番(ポイントガード)から5番(センター)のどこでもプレーできる」ようになっていくと踏んでいる。
「ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)やドマンタス・サボニス(サクラメント・キングス)、ドレイモンド・グリーン(ウォリアーズ)などはポイントフォワードとしてボールをドリブルし、非常に万能で、相手ディフェンダーからすれば彼らのような大きな選手をペリメーター付近で守ることは非常に難しい。今後は、彼らのような背が高く、大きな選手たちがさらに万能な技術を身につけて、コートの全員が(3P)シュートが打てて、どんな選手も守れて、ピック・アンド・ロールをされてもスイッチができるようになっていくと思うよ」(ハンレン氏)
クリニックの中で様々な技量を教えたハンレン氏は最後に「教えたことのすべてができる必要はない。そのなかで自分の長所となるべきところを見極めてそこを伸ばしていったほしい」というメッセージを送っている。
同氏がとりわけ身につけるべきだと強調したのが、シュート力だ。上述した通り、今後、選手にはポジションに関わらず様々な技量と万能さが求められることになっていくと思われるが、その中でシュート力を習得必須な“Separator”――他者との差をつけるもの――として挙げた。
「ステフ・カリー(ウォリアーズ)は過去にさかのぼっても世界最高の選手の一人。なぜそうなのかといえば彼はシュートが打てるから。もしシュートができれば、より高いレベルでのプレーが可能となるんだ」(ハンレン氏)
ハンレン氏はまた、ジョン・ストックトン(元ユタ・ジャズPG)やスティーブ・ナッシュ(元フェニックス・サンズ等PG)といった選手たちを例としつつ、パスやドリブルなどで味方にチャンスを作り出せる「プレーメーキング」力もやはりSeparatorだとした。
「スティーブ・ナッシュは背も高くなく、身体能力に特段優れているわけではなかったのに2度もリーグMVPになった。彼には高いバスケットボールIQがあり、正しいプレーをし続けることで周りの選手たちをも良い選手にしていた。少し古い例になってしまうけど、ジョン・ストックトンは本当にタフな選手で、ディフェンスでチームに勢いを与え、オフェンスでも見事な司令塔ぶりをしていた」(ハンレン氏)
背の高さやサイズ、身体能力だけが良い選手とそうでない選手をわけるのではない、とハンレン氏は言葉を強めた。
「シュートがうまかったり、相手のプレーを読む力に長けていたり、あるいは高いレベルでディフェンスができるのであれば、そういった選手たちにはいつだって活躍のチャンスはあるんだ」(同氏)
ハンレン氏は、自らが作ったPure Sweat Basketballという会社のCEOを務めており、同社には多くのスキルトレーナーが所属している。同氏はNBAチームとの重役らともコミュニケーションを密にしており、彼らが所属選手たちに求める技量をヒアリングし、それに基づいてトレーニングをするというようなこともしているそうだ。
例えば、テイタムのNBA入り後にはセルティックスから彼がドリブルからも3Pを打てるようにしてほしいというリクエストを受けて指導を施し、その結果、ステップバックなどから自らクリエイトする形からもシュートへいけるようになっている。
プロ入りから最初の2年で3本台だったテイタムの平均3P試投数は、大幅に増加。過去2シーズンで8.3本(2021-22)、9.3本(2022-23)へと増加し、彼がリーグ屈指の選手へと成長した要因の一つとなっている。
日本のBリーグでもスキルコーチを採用するチームは増加傾向にあるが、まだこの分野に脚光が集まっているというところにまでは来ていない。
しかし今後、日本のバスケットボールがさらに競技力を向上させていくには、選手個々の技量を上げていくことが必須になると思われ、スキルコーチの存在や指導のあり方なども、徐々に注目されていくのではないだろうか。