©Kaz Nagatsuka
「ニューヨークのメディアはどこだ。あれで(ファウルが)吹かれないなど間違いなく最悪の判定だった。われわれはやるべきことをしている。リーグには話もしているしクリップを送っている。なのに何度も何度も同じことを(リーグから)聞かされるのには辟易する」
2月末のNBA、デトロイト・ピストンズ対ニューヨーク・ニックスの試合後の記者会見で、前者のモンティ・ウィリアムズヘッドコーチが怒りの口調で述べた言葉だ。
この試合、残り数秒から、1点をリードする前者のアサー・トンプソンがボールをフロントコートに運ぼうとするところを相手のドンテ・ディビンチェンゾに阻まれたことでボールを失い、そこから得点したニックスが逆転での勝利を収めたのである。NBAではこのように、ヘッドコーチが記者会見などで罰金覚悟で審判の笛に対して明確に疑義を呈することがしばしば見られる。
一方、今季が8年目のBリーグではここまで明確なオフィシエイティング批判は滅多にない。しかし、27日に船橋アリーナで行われたB1、千葉ジェッツ対宇都宮ブレックスの試合後の記者会見では、敗れた前者のジョン・パトリックHCが淡々とした口調ながらリーグの「笛」の判断基準について疑義を呈した。
「最初からけっこう、向こうがフィジカルすぎるほどにやっていて、3回連続でバスケというよりはラグビーのような試合でした。今日もまたケガがいくつか出て、天皇杯でもあったんですけど、肘とかバスケットの動きじゃないことがいっぱいありました」
3回連続、とはこの宇都宮との試合と、先週末に代々木第一体育館で開催のアルバルク東京との2連戦のことを指す。
指導歴が長くその分、老獪さも身につけてきたと思われるパトリックHCの言葉の温度は、ウィリアムズ氏のような明確な怒りを含んだものではなく、言葉を選びながらというところも感じられたが、それでもBリーグでのオフィシエイティングに関して言うべきことは言わねばという意思がそこにあった。
Bリーグとヨーロッパの肘の使い方に対する笛は違う
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宇都宮との試合では序盤から相手に点差を広げられ、最終的に93-70という大差で敗れた。パトリックHCは上述したような相手の「フィジカルすぎる」プレーぶりだけが「敗因ではない」としつつつも、レギュラーシーズンが終盤に入り順位争いがさらに激化していくだろうという中で、ここでリーグに対してジャブを放ったというところか。
ウィリアムズHCが「クリップを送っている」としたように、ジェッツからもリーグに「ビデオを送っている」とパトリック氏は語った。これまで日本とドイツのプロチームで指揮官を担ってきた経験をすり合わせつつ、Bリーグの昨今のオフィシエイティングの傾向に対して警鐘を鳴らした形だ。
「なんというか、トレンドというか、審判にプレッシャーをかけて、ラフなことをやって審判が吹かなければもっとラフにやって……(それだと)誰かがケガをすることになってしまっているので、ちょっと心配です。もっとバスケらしいプレーを試合で見たいと思っています」
同HCはとりわけ、選手の肘の使い方に危惧を覚えているようだった。
「(私は)ヨーロッパのスタンダードに慣れています。ヨーロッパでは(Bリーグでの幾人かの選手による肘の使い方は)もう絶対、ディスクオリファイ(退場)かアンスポーツマンライク。(Bリーグではそういうのが)いっぱいある気がします。ちょっとこちらのスタンダードは違います。EASL(東アジアスーパーリーグ)でもこのようなことをやったらもう絶対だめだと思いますし、オリンピックやFIBAゲームでも同じだと思うんですけど、もうちょっと本当にバスケの動きかどうかというところは……もちろん、大きくてあまり動かない選手はお互いラフにやってもオッケーだけど、自分よりもちっちゃい選手とか細い選手にやったら、今日もあったのだけど、ケガになってしまうんですよね。それが心配です」
Bリーグに審判を派遣するJBA(日本バスケットボール協会)審判グループのガイドラインでは、肘を水平方向に激しく振る行為からのコンタクトなどについてアンスポーツマンライクファウルを判定するという基準が定められている。
しかしチームの現場を預かるパトリックHCからすれば、この基準が適用されていないと感じる場面がある、または最近、増えてきているということになる。審判グループではBリーグでの試合のレビューを行っており、上記したようなジェッツからの「懸念」も当然、伝わっていることと推察するが、こうしたオフィシエイティングをめぐるリーグとチーム間の齟齬は、プレーオフ等、重要な試合の勝敗を左右しかねないだけに今後、できるだけ埋まっていくことを期待したい。