©Kaz Nagatsuka
2月に入った。Bリーグの2024-25が始まってから約4か月が経ち、シーズンは折り返し地点を通過している。
毎年のことであるが、難しい時期だろう。シーズン序盤にいい出だしを切ろうとする自然な意気込みは薄れ、かといってまだ残り半分近くが残っており佳境であるとは到底言えないからだ。
中だるみ、という言葉は真剣勝負に臨む者たちを表現するには失礼かもしれない。ただこの、各チームが60試合をこなす長いシーズン(加えて日々の練習もある)において常に最上の気合いを維持することが容易でないであろうことは、外野から見ているわれわれにも想像がつく。
2月1日。西地区首位を走る琉球ゴールデンキングスは、代々木第一体育館で行われたアルバルク東京との連戦初戦に臨み、87-67と完敗した。
「自分たちがこのシーズンに入る前に、どういう立ち位置で始めたかっていうところだと思うんですね」
記者からの質問を受けた琉球の桶谷大ヘッドコーチは敗戦後、このように述べた。
勝った負けたは勝負の常である。ただ、負け方がいいものではなかった。序盤からターンオーバーを連発し、強みであるはずのリバウンドも取れない。フィジカルさでもA東京との差は如実だった。一時は33点差をつけられるなど、試合の大半を支配されたいってもまったく大仰ではなかった。
琉球は、1月25日の宇都宮ブレックスとの2連戦初戦でも105-86と同じように大敗をした。もう少し遡れば11月30~12月1日の千葉ジェッツとのシリーズでも完敗に近い形でスイープされている。
が、このシーズンがまだ前半の段階の千葉Jとの試合はともかくとして、すでに後半戦に入った中で宇都宮やA東京を相手にこれだけ点差をつけられての敗戦は、プレーオフに出場することのみならずリーグの頂点を争うことが当然視されるようになった琉球に、危うさを感じさせるもののようにも思われた。
だからこそ、上述の質問が桶谷氏へ投げかけられたのだ。そして、それに対する彼の返答が「どういう立ち位置で始めたか」だった。
続きを記していく。桶谷HCは彼のチームが「アンダードッグ」であると強調した。いや実際は「アンダードッグでなければならない」が、彼の本当に意図した言葉だったに違いない。
アンダードッグという言葉はスポーツにおいてよく耳にするものとなってきている。勝負で「到底勝ち目のない者」といった意となる。
しかし、琉球ははたしてアンダードッグなのだろうか。一般的な定義は上記したようなものだから、一昨シーズンまで連続でB1西地区で連覇を続け、ポストシーズンや天皇杯でも複数回決勝戦を戦い、2022-23にはリーグ制覇も遂げているチームが本来、この定義に当てはまろうはずもない(Bリーグファイナルと天皇杯の決勝に合わせて5度出場しながら1度しか優勝を果たしていないことも、桶谷HCをして琉球がアンダードックであると言わせている部分もあろうだろうが)。
窮した時に個人の力量でそれを打開してくれる選手がいるわけではない琉球にとって「アンダードッグ」とはーーもっといえば「アンダードッグメンタリティ」とはーーチームとしての「是」とでも呼べるものでるに違いない。
琉球は12月下旬に今シーズン初めて地区首位に立つこととなったが、桶谷HCは以来「勝ってあたりまえとか上位チームといい戦いをしないといけない」という空気がチームに漂っていると言及し、そして例の言葉を用いたのだ。
「僕たちはやっぱり、アンダードッグなんですよ」
ただーー青臭い物言いながらーー選手たちも人間である。長いシーズンにおいてアンダードッグメンタリティを高く保ち続けることは、容易ではない。もっと言えば、ほとんど不可能なことだと言えるだろう。
冒頭で記したように、シーズン半ばというのは1年がキックオフしたフレッシュな気持ちは薄れ、しかしポストシーズンを実際的に意識するにはまだ早い。そんな時期である。
「やっぱりゲーム数が多い中でモチベーションっていうのはなかなかキープできていないっていうのは正直、あると思うんです。中だるみじゃないけど、シーズンの真ん中に入ってきたところで何に対してゲームに向かっていくのかっていうところがちょっと出てきているかなと思っていて。『いずれ良くなるだろう、いずれ良くなるだろう』と感じて戦ってしまっているところは、最近出てきているかなと思っています」
桶谷HCはこの時期のチームの心理面での現状について、このように語った。
しかしながら、「中だるみ」は他の多くのチームを襲う、共通の敵であるはずだ。桶谷氏が上記のように話していたことを伝えると、A東京のデイニアス・アドマイティスHCは彼に「同意です」と首を縦に振った。
自身のチームにモチベーションの低下が感じられる時、アドマイティスHCは「アメとムチ」を使って指導に変化を加えるそうだが、高まらない気持ちを戻すための即効性のある「魔法の杖はない」と述べもした。
A東京は年末から年をまたいで5連敗を喫するなど、苦戦が続いている。その中でアドマイティス氏は「エフォート(努力)」という単語を頻繁に用いている。モチベーションが高かろうとそうでなかろうと、プロとしてやっている以上、「ルーズボールに飛び込む」(アドマイティスHC)ような献身性を見せるべきであるということだ。
完敗から一夜明けて臨んだ2戦目。琉球は本来の熱量と強度を取り戻し、83-58と今度はA東京を叩いた。アンダードッグメンタリティを、少なくともこの日は取り戻したということだ。
しかし、シーズンはまだまだ続く。琉球に限らず、モチベーションの上下という魔物はこれからも多くのチームを悩ませることになるのではないか。