第1クオーター、残り1分半強。川崎ブレイブサンダースの佐藤賢次ヘッドコーチはタイムアウトを取る。マスクをしてはいたものの、その瞬間の彼には怒りの表情があった。
ホームでファイティングイーグルス名古屋を迎えうったこの試合。粘り強いディフェンスから速い展開のオフェンスにつなげるなど、川崎の出だしは悪くなかった。
しかし、両軍が互いに選手を交代し始めると、川崎は徐々にそのアドバンテージを失っていく。佐藤HCがタイムアウトを取ったのは、そんな時だった。
「スタートで出た選手たちはゲームプランをしっかり頭に入れてやれたかなと思うんですけど、途中で出た選手たちがやらなきゃいけないことをやれていなかった。『誰が出てもこれを頑張ろう』と、ちゃんと試合前にホワイトボードに書いて言ったことをやれずに(FE名古屋に)ランを作られて、苦しい試合になってしまったのでちょっと厳しく言いました」(佐藤HC)
人間だから、ミスはある――。同HCはそう口にしたが、1つのほころびが試合の流れを変えてしまうことがあるのが、バスケットボールの、スポーツの怖いところだ。それに、相手だって試合の展開次第で対策を考えてくる。
それでも、この日の川崎は序盤の出だしの良さを生かしきれず、最終的に79-73の敗戦につながったと思えなくもなかった。
そのようなことを佐藤HCにぶつけると、彼も否定はしなかった。
「チームとして勢いが出る時って、チームで決めたことをしっかりやれたり、勢いをなくす時って、『これはやられては駄目、これは絶対に気をつけよう』といったことを簡単にやられてしまう、そういう時ってチームが下がってしまうと思います」
「みんな人間なので、選手も人間なので、もちろんミスもあるんですけど、そこをやろうとしてやられているのか、ふわっと入ってやられているのかっていうのは大きな違いがあると思います。(タイムアウトを取った時には)ふわっと入ってやられているように見えたので、きつく言いました」(佐藤HC)
キャプテンで、この試合、スタッツでチームトップの「+9」を記録した篠山竜青も、佐藤HCとは異口同音ながら、選手たちこそが責任を持ってコート上で役割を果たすことこそが肝要だと振り返った。
「最初から出るにしても途中から出るにしても、何を今、必要としているのかっていうところを理解するとか、3Pのパーセンテージの低い相手のポンプフェイクに対して簡単に飛んでしまうとか、そういったところの下準備というか、どれだけパーソネル(相手の陣容)を理解しているかっていうところは、キャプテンとしても、もっともっと、1人、1人がどれくらいそこに時間が避けているかっていうところを指摘しなきゃいけないと思うし、チーム全体としてもそこに対する責任感をもっと強く芽生えさせていかないといけないと思っています」(篠山)
篠山竜青「選手たちがどれだけ当事者意識を持てるか」
1月6日のアルバルク東京との試合で膝の故障を負ったニック・ファジーカスを欠き、その試合から5連敗を喫するなど、苦しい状況に直面する川崎。その中でも、サンロッカーズ渋谷や仙台89ERSとの対戦では破れながらも接戦に持ち込むなど、大黒柱のファジーカス抜きでも奮戦している。
だが、シーズンはすでに後半戦に入り、現状では中地区の4位に沈むチームにとって「惜しかった」をいつまでも言い続ける余裕はない。必要なのは、白星だ。
「すごく危機感は感じます」
篠山が言う。
「順位も順位ですし。それぞれが自分自信にもっとベクトルを向けて、ステップアップしなきゃいけないと思うので、今問われているのは1人、1人がどれだけ試合を左右する『当事者意識』を持てるかどうか。それが30分出る選手でも、5分でも同じっていうところの緊張感とか責任感、そういったところが今まさに問われている。良いときはすごくバーっと流れを持ってこられる試合もあるので、それをどれだけ続けられるかが、今、チーム全員に問われているところだと思います」(篠山)