すべてが「スタジオシティ」で完結する非日常世界「EASLファイナル4」。広島ドラゴンフライズは日本勢連覇達成を果たすか
恥ずかしながら、木曜日にマカオへ到着して以降、一度も外に出ることがなかった。
東アジアスーパーリーグ(EASL)・ファイナル4の最終日である。今年のはマカオのコタイ地区にあるスタジオ・シティという高級ホテルの他、リゾートやカジノ、ショッピング、レストランなどの施設が入ったスタジオシティと呼ばれる場所での開催となっている。
ファイナル4の「主役」は無論、参加4チームによる試合だが、会場のアリーナすらもこのスタジオシティの一部となっている。本稿は3位決定戦と決勝戦の行われる3月9日の昼前にから書き始めているが、少し前まではスタジオシティを抜け出て、「コタイ・ストリップ」と名付けられた目抜き通りを軽く散歩してきたところだ。通りの両側にはフォーシーズンズやコンラッド、パリジアンといった4つ星、5つ星の豪奢なホテルが立ち並ぶ。
マカオの旧市街は世界遺産を含めた歴史的建物等が数多くあり、その密度は高い。しかし、埋め立て地で人工的に開発された感の強いこちらコタイは道路も歩道も潤沢に幅を取っている。あまりに人工的すぎるきらいは、しかたのないことではあるだろうが、ことまっすぐ歩くという点では人にぶつかりながら進む必要もなく、気楽ではある。
ホテルの部屋が2700もあるというパリジアンの敷地内には「エッフェル塔」が、本家パリのそれの贋作だということに引け目を感じることもないように、堂々と立っている。こちらの贋作の高さはおおよそ162mということだから、大雑把に言って本家の半分の大きさということになる。
3日ぶりに吸ったマカオの空気が澄んでいる用に感じられたのは、長らく室内ばかりにいたからだろうか。
山崎稜「琉球の敵を取るじゃないけど…」
さて、夕刻からは3位決定戦、そして決勝戦が行われる。決勝戦はBリーグ代表の広島ドラゴンフライズと台湾・Pリーグ代表の桃園パウイアンパイロッツが、優勝賞金100万米ドル(約1億5万円)をかけて相まみえる。日本からは琉球ゴールデンキングスもこの場に来ているが、準決勝で桃園に敗れた。
同8日には参加チームによる前日練習が行われた。約2時間ほどのフライトで来られるということもあってか、マカオには多くの台湾人ファンが訪れている。7日の準決勝2試合はいずれも「日本対台湾」の構図となったが、会場の空気は台湾勢のホームである感が強くなっていた。3位決定戦も決勝戦も、おそらくは同様となるだろう。
ちなみに、台北の北緯は約25度で、マカオのそれは22度。地図で見返しても2箇所の距離は、やはり近い。
「自分たちがやっていることに少しでも会場の皆さんに共感してもらう部分があったらいいなと思っています。それは自分たちの戦う姿だと思うんですね。そこは広島でもいい続けていることなので一貫して変わることはありません」
前日練習時。広島の朝山正悟ヘッドコーチは、いつもと同じように前向きさを感じさせるような大きな声でメディアにそう語った。
準決勝の前日に遡ると、広島の山崎稜はもう片側の対戦、つまり琉球と桃園の試合では琉球が「勝つと思いますよ」と、いかにも予想に自身があるかのようにそう話していた。
果たしてその予想は外れた。山崎はまさか大会期間中にカジノの興じたりはしてはいないだろうが、その「賭け」には敗れたことになる。
8日にそのことについて触れると、ソフトな話しぶりが特徴の32歳のベテランは「ははは」とほがらかな笑いを響かせて、言葉を続けた。
「すいません、フラグをちょっと立てちゃって。全然、(琉球が)勝つと思っていたんですけど。やっぱり、あんなにシュートが来ない(44分放った3Pは7本しか決まらなかった)となると厳しかったりもしますし。それでも、よくあの点差(71-64、琉球は最大16点差をつけられながら後半巻き返して逆転に成功している)で押さえていたと思いますし、最後までわからない試合展開だったので、そこは地力というか、強さは琉球はあるなと思いました」
広島と琉球は早々とファイナル4行きの切符を手にしていた。つまり、実力的には決勝戦をこの2チームが争うことになっても不思議ではなかったことになる。しかし勝負に絶対はなく、実際、日本勢同士の金メダルゲームとはならなかった。
「いやあ、残念といえば残念ですけど」
決勝の相手が昨年度のBリーグファイナルでも対戦した琉球ではないことについて山崎は、そう語った。
「でもやっぱり、逆に琉球の敵を取ってやろうじゃないですけど、何としても、僕たち日本勢の連覇がかかっているので、そこは絶対に成し遂げたいなと思っています」
初のファイナル4開催となったフィリピン・セブ島での昨年度は、千葉ジェッツが優勝を果たしている。広島が勝てば2年連続でBリーグ所属チームが頂点に立つことになる。そうなれば、日本のBリーグの強さが強調されることになる。
スタジオシティに宿泊している他の幾人かに、到着以来建物の外に1度でも出たかと聞くと軒並み「いや、出ていない」と返してきている。
おそらく大半は大会終了翌日の10日にここを去ることになるだろうが、それが彼らにとって久方ぶりの外の空気となるだろう。
非日常の宴は、最終日を迎える。