会場は日本でも、台湾でもない。だが、アリーナで中立性が担保されているとは言いがたかった。
感覚的には会場の7割から8割は、台湾代表の桃園パウイアンパイロッツのファンだったように感じられた。あるいは、普段からこのチームを応援しているわけではない人たちも、不利だとされたチームを判官贔屓の気持ちをもって声援を送っていたか。
マカオのスタジオシティとよばれるリゾートホテル施設で行われた試合は、競った。そして、まるで敵地で戦うかのような空気の中、際のところでの勝負強さを示した広島ドラゴンフライズが勝った。
東アジアスーパーリーグ(EASL)の頂点を決めるEASLファイナル4が、広島が2024-25シーズンの頂点に戴冠したことをもって3月10日、幕を閉じた。
最終スコアは72-68。試合が終ってすぐに、何が起きたからその結果となったのかが、すぐに脳内で処理できない。それほどまでに、最後の1〜2分ではあまりにも予想外のことが起きた。
広島は試合残り1分18秒で逆転を許したが、その後、得意のディフェンスや攻撃でのデザインプレーが決まった。
とりわけ衝撃的だったのが、試合最後のプレーだった。残り約10秒から桃園がバックコートからのプレーを開始するも、渡部琉が相手からボールをスティール。渡部はそのままボールをレイアップで流し込んだ。
直後、試合の終了を知らせるブザーが鳴る。先刻までの桃園を後押しする声が響いたアリーナの熱は、一気に冷却していった。
優勝賞金米100万ドル(約1億5000万円)のかかった痺れる試合展開。しかし、広島の面々は攻守で体をぶつけることを恐れないという意味での熱さを終始示しながら、一方でなすべきことを実行する冷静さを失わなかったように見受けられた。
とりわけチームの中心の1人、ドゥエイン・エバンスはそのことを最も体現していたように感じられた。この試合で18得点、11リバウンド、4アシスト、3ブロックの活躍をしファイナル4の最優秀選手賞に選出されたエバンスは、気持ちを整えるための瞑想を実行している旨をメディアに明かしている。
最終盤であまりにいろんなことが起きたこの決勝戦後、彼はやはり瞑想による気持ちの落ち着きが奏功したことを述べている。
「ここのところ瞑想についてよく話しているけど、とにかくいかなる状況でも自分自身を見失わないようにしようとしていた。そのことは最後の1分でも同じで、僕たちが勝つにしても負けるにしても、とにかく慌てることなく味方同士で話し合いながらやろうとしていた」
中村拓人「全員の集中力が高かった」
それにしても、広島の選手たちの集中力たるや、である。同じくBリーグ代表としてこのファイナル4に勝ち上がってきた琉球ゴールデンキングスが、力を発揮しきれたとは到底言えない内容によって失意の未勝利に終っただけに、そのことは一層、際立ったように感じられた。
広島は、ファイナル4で先発SGの山崎稜が2試合で3Pを1本も沈められなかったが、それでも三谷桂司朗や渡部といった若手などが躍動するなど、山崎の不調という危機を危機と感じさせなかった。
「もうとにかく、全員の集中力は高かったと思いますし、1つ1つのプレーの遂行力などが勝ちにつながったかなと思います」
24歳の司令塔、中村拓人は決勝戦後、若手の地に足のついたプレーぶりについて問われ、そのように答えた。
ファイナル4での2試合のそれぞれで10人のロスターで臨んだ広島は、準決勝では7人が、決勝戦では8人が得点を挙げるバランスの良さを示している。
MVP獲得について「チームなくしての自分はありえないし、MVPは個人の賞だとは思っていない」と話したエバンスは、数多くのチームメートが得点をした事実について水を向けられると「皆、自分に任せろという気持ちでいる」と語った。
「誰もが他人に任せようなどと思っていないし、全員が貢献をしようとしている。誰もが自分をチームの一員だと考えているし、責任感を持って臨んでいる」
リーグ戦に戻る広島はより強い追い風を背中に受けられるか
こうした広島や琉球のことは、ファイナル4という短期決戦においての話だということを理解いただきたい。琉球に関していえば、今シーズンのB1で28勝12敗で西地区の首位に立っている。その強さは過去数年も含めての実績が物語るが、ことファイナル4では歯車が合わなかった。
対して広島だ。彼らはB1で18勝22敗と負け越しており、西地区の5位に甘んじている。ファイナル4での勝負強さを見ていると、その成績がにわかには信じがたい。
EASLでの優勝が、現状ではポストシーズン進出が危うい広島にとって追い風を与えることになるかと問われたエバンスは、「そうではなければいけない」と即答した。
「僕たちは今、シーズンで一番良いバスケットボールをしている。この週末で2つのとても強いチームを倒した。それに僕たちは5人、6人、7人とベンチから出てくるチームメートが本当によくプレーをしてくれた。ここでの勝利は間違いなくこの後にもつながっていくと思う」
マカオ開催はすばらしく、しかし課題も残した
冒頭で、会場に中立性が担保されていたわけではなかったと書いた。何も、台湾からのファンが多かったことを指しているわけではない。どこのファンがどれだけ押し寄せようと、自由である。
アリーナアナウンサーや大会のチアリーダーらが、桃園の守備の際に「ディフェンス!」などと叫んでいたのは、やはりよくない。来年度大会がどこで行われるかはわからないものの、こうしたことは改善されているべきだ。
スタジオシティという高級ホテル、カジノ、リゾート、ショッピング施設、そしてアリーナが一体となった場所でのファイナル4は、異次元の体験と来場者にもたらし、彼らを非日常に引き込んだだろう。プロスポーツの定義がこの非日常性にあるならば、ここでの開催はまったく失敗ではなかった。
また、スタジオシティのホテルに滞在したわれわれメディアを含めた大半の関係者にとって、すべてがこの場所で完結していたことは、ロジスティクス的にも時間の効率化という点でも意義があった。
一方て、街を巻き込んでこのイベントを行っているという感触は少なかった。マカオ開催を謳ってはいたものの、すべてが行われたスタジオシティのイベントという感が強くなっていたように思えた。すでに触れたように、アリーナ自体もスタジオシティ内にあるため、ここで国際スポーツイベントの開催場所であるという匂いを発することが難しくなっていたように感じもした。
今後はもっと、街を巻き込んだイベントであるというところを見てみたい。