川崎ブレイブサンダースで存在感を増す野﨑零也:ポストシーズン進出の瀬戸際にいるチームに「優しさは要らない」
新天地で出番を増す28歳が得意のディフェンスだけでなくリーダーシップでも目立っている
©Kaz Nagatsuka
数字上は、ファールが1つ増えるだけだ。そして、それによってアリーナが大きく湧くというわけでもない。
4月21日。川崎ブレイブサンダース対シーホース三河のシリーズ、2戦目の第1クォーター、残り1分弱。川崎の藤井祐眞がリング下にいるニック・ファジーカスへロブパスを入れるが、相手ディフェンダー2人に囲まれたファジーカスはレイアップをミス。
そこから三河は速攻に持ち込もうとするも、川崎の野﨑零也はボールをドリブルするダバンテ・ガードナーに対して身長185cm、体重93kgの分厚い体を躊躇なくぶつけ、ファールでそれを「潰した」のだった。
もっとも、彼のこういった隠れた好ファールを今シーズン、何度見たか。言うほど簡単ではない。相手がトランジションを出して数的優位ができそうだなといったことを、刹那の間に判断して反応しなければならない。
しかも、ボールを持った選手が目の前にいるならいざ知らず、野﨑の場合はどこからともなく現れて、それを実行しているのだ。
この21日の試合には敗れた(97-81)川崎だが、前日は69-65というロースコアな展開を制している。
最大15点のリードを許した三河は終盤にかけてじりじりと追い上げ、残り2分で2点差にまで詰め寄ったものの、ここで野﨑がボールを運びながらハーフコートラインを過ぎた場所でジェイク・レイマンから値千金のスティール。直後に相手からファールももらって、川崎の逃げ切りを演出した。
「狙っていました」
28歳は試合後、熟練の「技」を使った自身のプレーをそう振り返った。
「後ろから(僕が)追いかけてきているというのは多分、レイマン選手もわかっていたと思うんですけど、何て言うんだろうな……『あんまり追いかけないよ』っていう仕草を見せながら、絶対に取れるとは思っていたので、あそこはスティールを狙っていきました」
©Kaz Nagatsuka
昨秋の、三遠ネオフェニックスとの開幕シリーズ。川崎の佐藤賢次ヘッドコーチは、その試合で良い働きをした新加入の野﨑について「ディフェンスでも体を張れるので、今日みたいなプレーを続けてくれれば、別にスタメンを固定しているわけでもないので、スタートも十分あり得るだろうし、どんどんアピールしていってほしい」と語っていた。
果たして野﨑は、その言葉どおりに試合の頭からコートに立つ権利を手にする。2月4日の京都ハンナリーズ戦を皮切りに、そこからの21試合のうち17試合で先発出場を果たしている。現在は、4月7日の広島ドラゴンフライズ戦から7試合連続の先発継続中だ。
それに伴って平均の出場時間も増えた。2月以降は20分以上、出ることも珍しくなくなっている。4月17日のファイティングイーグルス名古屋戦では今季最長となる27分12秒の出場時間を記録した。
先発として長い時間コートに立つということは無論、肩にのしかかる責務の重さが増すことを意味している。野﨑はフィジカルなディフェンスが強みで、かつオフェンスでも力強いドライブや36.5%と高確率の3Pシュートで貢献する(平均得点は5.3)。
一方で、「ヒール役」になることも今では役割だと自認する。4月13-14日の信州ブレイブウォリアーズ戦ではファールの判定を吹いてもらえないことで味方が自陣に戻るのが遅れた場面で物を申したのが、野﨑だったという。
「そこで喝を入れたりとか、そういうのができるのは僕だなと思っているので。悪役、ヒール役になるのは日本人には難しいじゃないですか。でもそこはもう優しさとか要らないと思っているので。負けたら終わりだし、全員、勝ちたいと思っているので自分自身から発信していきたいなというのは、スタメンになってすごく感じている部分で、意識しています」(野﨑)
©Kaz Nagatsuka
31勝25敗で中地区の4位に、ワイルドカードでは5位と現状ではポストシーズン進出ができない位置にいる川崎。残るは4試合。ホーム・とどろきアリーナでの開催は27日からのサンロッカーズ渋谷との2連戦が最後となる。
チームが苦しい状況で、今シーズン初めてB1の舞台で戦っている野﨑は、毎試合がとてつもない重みを持つ中でのプレーを「楽しい」と言い切る。三河との試合で相手選手がフリースローを打つ際には「もっとプレッシャーをかけてくれ」と言わんばかりに、小さくではあったが手でファンを煽った。
「ブースターさんにももっと枯れるくらい声を出してほしい」と述べた野﨑だが、これまでのキャリアで受けてきた以上の声援は「すごく力になっている」と微笑む。
えんじ色のブレイブサンダースカラーに染まるスタンドから浴びる声援は、野﨑にこんな感慨ももたらしている。
「もう終盤なんですけど、やっと川崎の一員になったかな」
スタッツには残らないとしても、野﨑のプレーぶりが及ぼす影響は今の川崎にとって間違いなくある。逆転でのチャンピオンシップ(CS)出場の鍵を握る1人だといっても過言ではない。