©Kaz Nagatsuka
日本代表入りが、明確な目標だ。
その実現にどれほどの現実味があるのかを探るのに手っ取り早いのは、日本代表の選手と対峙することだ。
ファイティングイーグルス名古屋の佐土原遼にとって、12月4日に行われた天皇杯3次ラウンドの千葉ジェッツ戦における渡邊雄太とのマッチアップは、そういった機会の一つとなった。
3人制日本代表を経験し、Bリーグでも特別指定のシーズンを含めれば今季が5年目で、成長という階段を上ってきた。それにともなって、技術も自信も備わってきたという矜持を持つようになった。
だから、海千山千の世界の渡邊を完封できるなどとは思ってはいなかったにしても、一定程度はやれるんだという気持ちはあったようだ。それは、自身と日本代表入りまでの”現在地”が「あと1歩、2歩くらい」だと考えていた彼の言葉からも感じられた。
だが、渡邊という、ただの日本代表ではなくその中でも上位の選手を相手に、その差が「1歩、2歩」どころではないと、佐土原は感じざるを得なかったようで「ふがいない感じのスタッツだしディフェンスでもあまり貢献でき」ず、渡邊との対峙では「自分の実力不足」で押さえきることができなかったと、反省の弁に終始した。
「自分が目標としている日本代表というところで渡邊選手はトップですけど、自分の中でこの千葉ジェッツとの試合をした上であと1歩、2歩くらいかなというのが自分の率直な感想でした。手応えのある試合もありましたし、試合をやっていく中で点も取れていましたし、いろんな選手について成長をしているなという部分はあったのですが、今日の試合で代表選手とちゃんとマッチアップをしてみて、本当、(あと)1歩、2歩(のところに)も行っていないんじゃないかという気はしています」
佐土原のこの試合でのスタッツは、29分16秒の出場時間で5得点、3リバウンド、3アシスト、2スティールだった。今季のBリーグでは開幕から全試合先発出場をし、キャリア最高の平均9.3得点だ。外国籍のショーン・オマラや曾祥鈞が故障で欠場中で出場時間が伸びたことを考えても、確かに千葉戦での数字はやや物足りなかった。
佐土原は日本代表について、上の言葉に続けて、こうも語っている。
「トム(・ホーバス、男子日本代表ヘッドコーチ)さんのバスケットは見ている限り、ディフェンスで頑張って、走って、そこからトランジションの3Pといったバスケットスタイルだと思うんですけど、自分は今、両方ともそのレベルにまで達していないなというのが率直な感想です」
もっとも、渡邊は佐土原が言うように、日本代表の中でもトップの存在で、経験から技量から、何からなにまでがあまりに違いすぎる。換言すれば、25歳の佐土原とは比べ物にならないほどのものを積み上げてきた。端的に、身長だけを見比べても佐土原が192cmなのに対して渡邊は206cmと、本来ならばマッチアップするのが無理難題であるほどの体格差だ。
それでも、いや、だからこそ、か。佐土原は渡邊に対してしつこく、身体を当て続けた。渡邊が、佐土原の腕を振りほどきながら顔をしかめながら嫌がる場面もあった。
先週末の琉球ゴールデンキングスとのリーグ戦で渡邊は、相手の若手ガード、脇真大が自身に対して遠慮なく身体をぶつけながら守ってきたことについて讃辞を述べたが、それはこの日の佐土原に対しても同様だった。
高校卒業後に渡米し、昨季まで6年間、NBAでプレーしてきた渡邊は日本代表で初めて一緒になったにもかかわらず最初から自身に対して遠慮なく体をぶつけてきたという吉井裕鷹(三遠ネオフェニックス)を引き合いとしている。脇や佐土原が年長で実績のある自身に対して臆することなく体をあてながら挑んでくる様を体感し、若い才気の出現を喜ぶ。
佐土原が、日本代表入り実現へ足りないのは「1歩、2歩どころではない」としたことについても渡邊は「すばらしい」と述べている。
「世界に戦っていくにあたって現状に満足している選手はなかなか日本代表のユニフォームを着てプレーするのは難しいと思うので、本人がそういうふうに感じたのであれば、またそれは彼の成長につながると思いいますし、謙虚な姿勢がまたモチベーションになって努力につながっていくというのは、彼にとってすごくプラスになると思います」(渡邊)
FE名古屋の川辺泰三HCはこの試合での佐土原の出来について、決めるべきシュートやターンオーバーはあったとはしながらも、インサイドに故障者が複数人いたことでパワーフォワードとしてもプレーした同選手がいなければ「そもそもゲームにならなかった」と、労いもしている。FE名古屋は不利と見られたこの天皇杯の千葉J戦で85-80と接戦に持ち込んだ。佐土原の献身がなければ、確かに「ゲームにならなかった」のかもしれない。
川辺HCによれば、佐土原はリーダーシップにおいても目を見張るものがあるとのことで、佐土原自身もFE名古屋に来てまだ2年目ながら、勝率(今季リーグ戦の戦績は5勝11敗)が伸び悩むチームが暗くなりすぎないように意識的に声をかけるようにしているという。
日本代表入りをするのに今はまだ、足りないところは多いのかもしれない。だが、佐土原のそんな意識の高さや現在地を冷静に見極められる頭を持っていることが、いずれ奏功する可能性を秘めているようにも感じる。