試合時間残り6分強。川崎ブレイブサンダースの新星、益子拓己はセカンドチャンスからのこの日3本目となる3Pを沈め、最大20点つけられた点差を10点差にまで縮めて見せる。
ここで相手の琉球ゴールデンキングス、桶谷大ヘッドコーチはタイムアウトが取ると益子は、アシストパスをくれたベテラン、篠山竜青と跳びながら空中で身体をぶつけ合い、喜びを表現した。
「あのシーンは夢中になりすぎてタイムアウトと気づいていなくて、竜青さんが『来い! 来い! 来い!』みたいなことを言っていたので、ああなったんですけど、他の選手たちが活躍をして、チームでバーッとああいう雰囲気になっている時に『上』から見ていていいなと。自分が出たらあれ、できるかなという思いはあったので、夢中になっている中で竜青さんのあれを見た時は、やっとできるんだって思いながらやりましたね」
2月7日に行われたこの試合、川崎は結局追い上げ虚しく琉球に87-75で敗れたものの、益子という「若武者」の躍動は苦境に立つチームにあって一つの光をもたらしたように感じられた。
昨夏から川崎の練習に参加してきた益子は、2月初頭に選手契約を果たし、先週末のアウェイでの京都ハンナリーズとの連戦に出場していたが、とどろきアリーナでのデビューとなったこの日、ホームの観客の前で攻守において思い切りの良い、チームにエネルギーをあたえるようなプレーぶりを見せた。
15分強の出場時間を与えられた186cmのシューティングガードは、4本放った3Pをすべて決め、チーム2位の12得点。これで全試合の京都戦に続いて2戦連続で2ケタ得点をマークした。
練習の成果を披露する機会がついに訪れた、といったところだ。いつ試合に出るかわからない練習参加という立場の中で、準備を重ねてきた。川崎のアシスタントコーチ陣が彼1人のために「トイレに駆け込むくらいの激しい」(川崎・佐藤賢次ヘッドコーチ)ほどの激しい練習を課されてきた。
「今まで大学でやってきたバスケット感とは違うことを様々、教えてもらって、毎日発見があって、こういう技術を使ってこうやって相手を見るんだとか、新しいことを教えてもらっていたので、すごいきつい期間ではあったんですけど、毎日楽しくて、全然、心が折れるというのはなかったかなと思います」
上述の益子の言葉の中の『上』とは、ホームゲームにおける客席のことだ。契約以前の益子にとっての「居場所」はそこだった。
練習に参加するだけの「日の目を見ない」日々の中で心が折れることはなかったのかと問われると、益子は「新人」とは思えない堂々たる態度で上のように答えた。
拓殖大学在籍時の昨シーズンは、特別指定選手として京都で11試合に出場した。またU23の3人制日本代表としてもプレーしてきた。
選手として契約してくれるチームがありながら、自身の成長を促すことのできる場所へということで川崎での練習参加を選んだ。琉球との試合では「後から出てくる選手が静かにしていても仕方がない」と、コートに立つと積極的にハドルを組んだり、味方に声をかけるなど、その技量だけでなく内面でも戦力になりうるところを示した。
敗戦で重たかった佐藤HCの表情も、厳しい練習を前向きな姿勢で取り組んできたそんな益子の活躍について語った時には和らぎ、今後も「チーム内でチャンスを掴み続けてほしい」と期待をより膨らませた。