©Kaz Nagatsuka
声の張りが、新天地での充実を語っていた。
今シーズン、アルバルク東京へ移籍した大倉颯太のことだ。
昨シーズンまでは千葉ジェッツという強豪に所属してきはしたものの、膝の靭帯断裂という大怪我を2度も経験した。順風なキャリアを歩んできたとは到底、言えない。
だが、悲壮感は感じられない。新天地では、過去の分を取り返すというよりも、ここから新たな自分の表現していきたいという前向きさが薫る。
「与えられている役割の最低限はできているかなと思っていますが、そこから僕ができることをもっとアピールしていきたいですし、もっと、もっと、いい意味で想像を超えたようなパフォーマンスが優勝には必要だと思っているので、そこは求めていかなきゃいけないところだと思っています」
先週末、横浜国際プールで行われた横浜ビー・コルセアーズとの2連戦の初戦で89-80の勝利後、大倉はそのように話した。
役割が明確なのも、大倉が自身がコート上でやるべきことに集中しやすくさせているのかもしれない。登録上「PG/SG」となっているい大倉は、千葉Jではその両ポジションでの起用となっていたが、彼いわく「PGが絶対のチーム」のアルバルクでは完全に司令塔としての出場となっている。
今シーズンここまで、平均出場時間は14分42秒となっている。横浜BCとの初戦では最多の16分36秒もの間、コートに立った。千葉Jではもっと少ない出場時間だったかと思いきや、昨シーズンは平均12分36秒、その前年は同17分12秒だった。千葉Jのガード陣には富樫勇樹という圧倒的なスター選手がいるからか、それだけの出場時間があっても、印象が色濃く残るようなものだったかといえば、そうではないだろう。
いや、現状のアルバルクにおいても、テーブス海のバックアップとして、彼がコートに出ている時の印象に鮮烈さがともなっているかといえば、そんなことはない。少なくとも今は……。
10点のリードを「15点、20点と広げられるように」
©Kaz Nagatsuka
大倉が「アピールをしたい」「想像を超えたようなパフォーマンスが」と話したことについては、触れた。だが、シーズン開幕から間もな現段階ではまだ、逸る気持ちをぐっと抑える。大倉は「僕が出ている時間のチームのターンオーバーは僕のターンオーバーだと思っている」と言うが、まずは、PGとしてデイニアス・アドマイティスヘッドコーチから求められる役割を確実にこなことで信頼を得る作業過程にあるというところだ。
大倉は越谷アルファーズとの開幕戦で2つしてしまってはいるものの、それ以降は1つのターンオーバーも記録していない。横浜BCとの初戦後、アドマイティスHCに大倉評を聞くと、故障歴のある彼の起用法については慎重であるべきだという物言いをしつつ、「ディフェンスではタフに、フィジカルに体を当て、(オフェンスでも)シュートを決めつついい判断をしてくれています。我々としても彼がこのチームにいてくれてとても良かった」と述べた。
ただ大倉は、このまま司令塔をそつなくこなす存在にとどまるつもりはない様子だ。アドマイティスHCに求められるものはあるにせよ、実際にコートに立つ者にしか感じられないものある。大倉は、自身が「いくべきだ」と思うタイミングが訪れれば「オフェンスのところでクリエイトして、例えば10点のリードをしているものを10点差で終わるのではなくて、15点、20点と広げられるように、そこは僕のペースでやっていきたい」と、言葉に力を込めた。
今年3月。フィリピン・セブ島で開催されたEASL(東アジアスーパーリーグ)・ファイナルフォーを、千葉Jが制した。試合後、チームは宿泊するリゾートホテルに隣接するビーチでのパーティーで王座戴冠を祝ったが、海に入るなどはしゃいだりする多くの選手やスタッフをよそに、ファイナル・フォーで出場のなかった大倉の表情の温度は低いままのように見えた。
2024-25のBリーグシーズンが始まってまだ2週。何を言うにしても、あまりに早計だ。が、「もっと、もっと、アピールしてやっていきたい」という現段階の大倉の口から出てくる言葉には、アルバルクという新天地で自分の立場を見つけるのだという確かな決意が感じられた。