©Kaz Nagatsuka
こうしたらもっと良いのにとわかっていながら、コートに立ってそれを実践することができない歯がゆさと戦った1か月だった。
横浜ビー・コルセアーズのキャプテン、森井健太が戻ってきた。11月6日のアルバルク東京戦。第1クオーター半ばとなって、蛍光黄色と派手なシューズを履いた男がラッシ・トゥオビヘッドコーチから呼ばれると、ホーム・横浜国際プールに集まった満員の観衆が沸いた。
数分後、セカンドチャンスでパスをもらった森井は、トップ・オブ・ザ・キーから3Pシュートも決めてみせた。さらに大きな歓声が、アリーナに響いた。
いいプレーをしても、大声で吠えたり拳を振り上げるような選手ではない。が、森井が纏う気合いは、見て取れた。
当然だった。森井は、開幕節の秋田ノーザンハピネッツ戦で右足太もも裏の肉離れを引き起こし、戦列を離れた。試合ではチームに帯同し、ベンチの端や裏から味方に助言をしたり、鼓舞をした。チームメートたちと同じようにユニフォームと着て、バスケットボールシューズを履いていた。それでも、この試合まで復帰は待たねばならなかった。
チームはトゥオビ氏という新指揮官の下、新たなスタイルに挑戦している。昨シーズンまでのエースだった河村勇輝(NBAメンフィス・グリズリーズ)を失ったこともあり、”純然たる”ポイントガードは森井だけとなった。なのに、プレーができない。それがもどかしかった。
「ラッシコーチのバスケットはプレシーズンや天皇杯でやってみて、僕自身、すごく合っていると感じていましたし、僕の重要性はシーズンが開幕する前からわかっていたつもりなので、本当にチームに申し訳ないという気持ちがありました」
アルバルクへの80-77の敗戦後、森井はそのように語った。
これまで7年間、Bリーグでプレーしてきたベテランとしての経験があるから、コーチたちとはまた違った、選手なりの目線もある。29歳の森井は自分がコートに復帰した際にはどのようにチームをリードするかを考えながら、サイドラインから声によって仲間を助けることのできない我慢の期間を過ごしていた。
「試合を見ていると、相手の弱いところを賢く攻められていないなという時間帯やテンポの部分でちょっとおそくなったりというところなど、PG目線としてもチームの課題がすごく見えていました。あとは、(ダミアン・)イングリス選手がインサイドで強みなんですけど、今のチームはパッシングバスケットなのでその中で少し(彼が)ボールを止めちゃう時もあるので、イングリス選手でいくところとボールを動かすところは、僕が復帰したら強弱をつけようとは感じていました」
実際、この試合での森井はイングリスにボールを渡して彼にやらせる時もあれば、シューターの大庭岳輝に3Pを打たせるパスを供給するなど、丁寧に状況を見ながらの司令塔ぶりを見せていた。
トゥオビHCも「チームのトーンを作ってくれますし、先週(のレバンガ北海道に対しての連敗)ではなかったスピードももたらしてくれますから、彼の復帰を待ち望んでいました」と森井の復帰を喜んだ。
河村勇輝も嫌がった森井のディフェンス
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森井が戻ってきたということは、彼ならではのディフェンスが戻ってきたということでもある。相手との体の隙間をまったく作らないような密着した守り方は森井の代名詞と呼べるものだ。故障箇所の右足はテープで巻かれていたし、出場時間も11分台と制限はあったものの、ディフェンスという最大の持ち味が薄まることはなかった。
パリオリンピックにも出場したアルバルクのエースガード、テーブス海とのマッチアップでは、彼にボールを持たせないようなディフェンスを幾度か見せ、相手のリズムを崩してみせた。
トゥオビHCは森井を「Xファクターというのは違うかもしれませんが」としつつ、「リーグで最も優れたディフェンダーの1人」だと言い切った。
「(アメリカへ発つ前に横浜BCの練習に参加していた河村)勇輝も夏の間、そうだと言っていました」
同指揮官は、言う。「そうだと言っていた」というのは森井が優れたディフェンダーの1人だということを指す。
2022-23のチャンピオンシップ(CS)で、河村が「過小評価されてている選手」と評した森井について、こう述べていたのを思い出す。
「ディフェンス面でも、Bリーグの中で僕は一番、マッチアップするのが嫌だなと思うのは練習中の健太さんだと思っています」
森井も「国内のリーグで誰よりもすごい選手と每日、マッチアップをしていたので、ディフェンスの部分では僕もすごく自信はあります」と、河村と互いに高め合ってきた時間を振り返った。
10月の連戦でも当たっていたアルバルクに対しては、これで0勝3敗となった。また北海道戦から数えて今シーズン初めての3連敗となってしまってもいる。今回のアルバルクとの試合は横浜BCが勝っていてもおかしくない展開ではあったものの、森井は「目標がCSだというならば、今日のようなゲームを取れないと厳しい」と危惧を隠さなかった。
「BコルをどうやってCSに連れていくかは、自分自身にとってのチャレンジです」
森井は、そう口にした。
河村が去ったチームにおいて、PGであり、キャプテンであり、在籍年数が多くなっているなどの要素によって、自身がチームを牽引しなければという思いは、森井の中で一際、大きいように見える。