©Kaz Nagatsuka
学生時代にはトップリーグでプレーすることなど絵空事でしかなかったとはいえ、かつては毎試合、20分以上の出場時間を得ていた田代直希が、プロ選手でありさえすればいい、ベンチに座っていられるだけでもいい、などと思うはずもない。
膝の靭帯断裂などの故障の影響もあり、過去2シーズン、出番がぐっと減ってしまっていた田代は、10月19日にららアリーナTOKYO-BAYで行われた京都ハンナリーズとのシリーズ初戦で先発出場を果たした。
「久々っすね。何年ぶりですかね。覚えていないくらいです」
千葉ジェッツが92-84の勝利を収めた後、スターティングラインナップに名前を連ねたことについて、31歳は外連味なくそう話した。
調べると、田代が最後にその役割を担ったのは琉球ゴールデンキングス所属時の2023年3月15日、ホームでの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦だった。だが、彼が先発に定着していたということならば、54試合に出場した202-21までさかのぼらねばならない。
プロ入りから8年間、根城としてきた沖縄を離れた今シーズン、千葉Jに移籍した田代。この19日の京都戦では20分34秒コートに立った(23日の佐賀バルーナーズ戦でのそれは25分33秒となった)。
故障に悩まされてきたことについては触れたが、ここまでの彼の体調は、彼いわく「パフォーマンス(メディカル)チームがめちゃくちゃ優秀」ということもあってか、とりあえずは良好のようではある。
とりあえずは、としたのはここ数年、長い出場時間を得られていなかったために、田代本人も高い強度でそれだけの時間、プレーをし続けられるかの感覚を模索しているようなところが感じられたからだ。
「やっぱり、嬉しいっすよね」
2024-25、ここまでの18分31秒と前年(7分25秒)より平均出場時間が倍以上となっていることに問われた田代はそう口を開きつつ、言葉を続けた。
「その反面、フィジカル的に20分とか出ていなかったですし、あと50何試合もあるので、そこのところはもっと調整していかないと、この強度でやり続けるとまたどこかでケガとかがあるかもしれない。そこはどうしても避けたいので、もっと体作りをして、自分の体を正しく動かすという勉強はしていかないとと思います」
琉球という強豪から、千葉Jというまたリーグ上位のチームに移ってきた。とはいえ、船橋市出身で高校は浦安で通った田代にとって、単に強い球団に移籍してきたという以上の特別な感慨をもたらしている。
「プロの選手っていっぱいいるじゃないですか」
田代が言う。
「その中で地元でプレーができる選手ってかなり限られてくると思うんですよね。その地元のクラブがすごく強くて、優勝を狙えるチームで、かついろんな環境が整っていて、こういったアリーナがあって、ファンの人たちも熱いと、すべてが詰め込まれた環境でプレーができるなんて、相当な確率だと思うんですよね。そこでプレーができているというのはやっぱり、すごく幸せだし、まったく思い描いていなかった未来だったので不思議な感じではありますけど、もっともっと上昇気流に乗っていけたらと思うので、千葉県とか船橋とか、千葉ジェッツに本当、貢献していきたいなという気持ちは強いです」
©Kaz Nagatsuka
優勝を狙えるような強いチームには、共通した強固な土台のようなものがあるはずである。しかし、一方で、どのチームにも彼らならではの色や風土のようなものがあるだろう。
田代の話を聞いていると、ともにリーグ制覇の経験がある琉球と千葉Jでも、2チームには異なる空気が流れているのだと気付かされる。
先述したようにケガとの格闘があったこともあっただろう。琉球にいた時には「もっと思い悩んで、自分の中にいろいろとフラストレーションがありながら、もがいていたような感じ」だったと田代は振り返る。強いチームであればあるほどその中での競争にもさらされるが、千葉Jでも「自分のできることを証明しないといけない」一方で、「琉球で置かれた立場と今、千葉で置かれている立場ではまったく違うので、競争すらも楽しくすごせている」と口調は軽快だ。
「ちょっと大人っぽいチーム」だという琉球と千葉Jでは、練習や試合中の雰囲気にも違いがあるという。
「(千葉Jは)練習中も真剣にやりながらも笑いがあったりというのは、ジェッツに来て違うところだなと感じるところです。琉球はちょっと大人っぽいチームで『もっと考えてバスケットをしろ』とか『今のは良いシュートだったのか、良いパスだったのか』みたいなのを常に考えながらプレーをしなきゃいけなかったんですけど、ジェッツは何か『空いたら打てよ』とか『前にディフェンダーがいないなら突っ込めよ、レイアップいけよ』とすごくプッシュしてくれるので、ちょっと考えがちな自分のバスケットをガラッと変えてくれたのは、カルチャーみたいなものが大きく関係していると思います」
しかし、まだ開幕してから間もない。田代の中では彼のゲームが「ガラっと」変わったのかもしれないが、見ている我々からすれば、それを判断するだけの材料が十全に与えられているわけではない。
だからこそ、2024−25シーズン、赤いユニフォームをまとった田代の働きぶりを見続けることに、興趣をそそられる。