3月26日の琉球ゴールデンキングス対川崎ブレイブサンダースの試合は、もっとも手に汗握るという点で今シーズンの上位に入るものだったと言えたかもしれない。
それは、ホームの川崎が最大18点差から挽回して試合を延長に持ち込んだからというだけではない。
コート上で、両軍は文字通り戦った。途中、川崎の野﨑零也が激しいディフェンスをしてきた琉球の伊藤達哉に詰め寄る場面があった。ここから両軍のプレーは熱のこもったものとなっていき、琉球のヴィック・ローや川崎のアリゼ・ジョンソンが敵意を示してアンスポーツマンライクファウルやテクニカルファールが吹かれもした。
「めちゃくちゃ良かったんじゃないですか」
「荒れた」試合を、川崎の篠山竜青はそう振り返った。頬を張られたら張りかえせが今シーズンから指揮官となったロネン・ギンズブルグ氏が求めてきたことだと、36歳のキャプテンは言う。
篠山は「格上の琉球さんがちょっとでもイライラして、フラストレーションを溜めたプレーが出たら僕らの勝ち」だとも述べた。
「下位(のチーム)らしく、ドッグファイトじゃないですけど、噛みついていくっていうところは必要なことだと思います」
川崎は116−111で敗れ、今シーズンの戦績を14勝31敗とした。強豪と呼ばれてきたチームは、B1中地区で最下位に沈む。ポストシーズン争いをする集団の背中は、霞がかかるほど遠く先だ。
しかしながら、勝ちたいという純なる、本能的な欲求に上位のチームとの差はない。会場に駆けつけるなど応援をしてくれるファンに対して戦う姿勢を見せるプロとしての責務もある。
ただし、上位のチームとは置かれる立場が違う。上述のローのプレーは、野崎に対しての「報復」のようなもので、それにより彼はアンスポーツマンライクファウルの判定を受けた。仮にもう1つアンスポーツマンライクファウルやテクニカルファールとなれば退場となり、次の試合にも出場出来ない事態となってしまう。
琉球の桶谷大HCはローをチームの中での「替えがきく選手ではない」とし、彼には自制をしてほしかった旨を述べた。琉球は現在、西地区の1位に位置しリーグ優勝を狙う立ち位置にいる。眼の前のことだけでなく、先のことも考えてやるべきだというのが琉球の面々が置かれる状況だ。
かたや川崎のそれは異なる。篠山は長いシーズンを「1つのマラソン」に例えたが、すでに「30キロ地点」を過ぎた時点で川崎はすでに前の集団から大きく脱落してしまっている。
その中で、チームが「一つの塊」となって戦うという姿勢を見せることに意義があるのだと篠山は言う。
ローが野﨑を突き飛ばした場面の直後、ジョンソンはローに対して威嚇をしテクニカルファールを宣告され、ファールアウトをしてしまっている。これについてギンズブルグHCも桶谷氏がローについてそう述べたように「やるべきではなかった」と苛立ちの言葉を口にしている。
チームを預かり、勝利のためには何が最善かを考えねばならないギンズブルグ氏の立場であればそれはおかしなものではない。
自分のためにやり返してくれた味方を野﨑は「嬉しかった」
一方で、野崎はジョンソンについて「もうちょっと落ち着いていればファールアウトにならなかったのに」と冗談めかしはしたものの、「率直に嬉しかったです」と味方のためにそのような行動と取ってくれたことを意気に感じた様子だった。
川崎にとって今シーズンの45試合目だった。前年までの主力が抜け、新指揮官、新外国籍を迎えたシーズンは、戦績が示すように苦戦ばかりが続いた。しかし、FIBAブレークがあけてから90得点以上を挙げる試合を5度記録し、結果が伴わなくとも三遠ネオフェニックスや琉球といった上位チームと伍して戦うことができるなど、チームは前進を見せている。
そこには、外国籍選手頼みからの脱却も背景にあるだろう。琉球戦では篠山が果敢に中へ切り込み、飯田遼や野崎が迷いなく3Pを放った。ビッグマンの鎌田裕也も相手の重量級外国籍を相手に必死のディフェンスをした。
敗れたとはいえ琉球という優勝候補と真っ向から「殴り合うこと」ができたことについてギンズブルグHCは、日本人選手たちが自信を持ってコートに立つことができていることを要因として挙げた。
野﨑は、琉球という優勝を狙うチームを相手に「最大18点差から巻き返すことができる力はあるというのは証明できた」と、シーズン前半にはなかったチームの成長、粘りについて手応えを語った。
今シーズンの成績という点で、ポストシーズン進出や、地区内の順位を上げることすら川崎にとってはもはや相当、困難な話である。
しかし、人々の人生が続いていくのと同様に、選手たちのキャリアも続いていく。このまま順位は変わらなかったとしても、それでもそれぞれの試合に戦う意義は間違いなくある。
篠山は「若いチームにとって自信は大事だと思うし、日本人選手にとっても自分たちでやれるということを感触としてつかんでいくことがすごく大事」だと話した。
「昨シーズン、なかなかプレータイムがもらえなかったような選手たちがたくさんいる今のロスターですけど、こうやってやれるんだっていうところを持ったまま、残りの15試合を戦っていくっていうのはすごく大事なことだと思います。1人、1人が自信を持ってこれからもアタックする、日本人が点を取ろうぜというところをやり続ければ、チームにとってもそうだし、それぞれの選手の未来にもつながるんじゃないかと思います」
自信を持ってアタックすることが未来につながる
琉球との試合が終わってからメディアの取材を受けるまで、頭を冷却する時間は相応にあったようにあったように思われた。負けてしまったからというのはあったにせよ、野﨑の表情は硬く、言葉を出すことに若干、難儀していたように感じられた。換言すれば、敗戦を消化しきれていない様子だった。
延長の残り約20秒。決まれば逆転となっていた野﨑によるコーナーからの3Pは外れた。そのシュートに対しては琉球の岸本隆一がチェックにきていた。野﨑はそのブロックをフェイクで受け流してから打つか、空いている誰かにパスをするかなどしていればという思いが頭から離れなかった様子だった。
「まあ、『たら・れば』になるんですけど……自分の力がなさすぎました。視野の狭さというか、経験値のなさを痛感させられたなというのが強いですよね」
その姿には、改めて、「勝ちたい」という純なる思いがいかなる選手にも本能的に宿っているのだと思わされるところがあった。