所属チームで絶対的なエースだったわけでない自分を「引き上げてくれた」ことに対する感謝がある。
昨夏のFIBAワールドカップでプレーすることは叶わなかったが、再び、機会を得た須田侑太郎(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)が「恩返し」の気持ちも込めて再び男子日本代表に戻ってきた。
代表チームというのは各チームのエース級の選手たちが集まるものだと考えられていることが多い。
だが、トム・ホーバスヘッドコーチ率いる日本男子バスケットボールチームを見ていると、必ずしもそうではないことがわかる。
同指揮官は選手たちの特性を見極め、彼らに役割を与え、そして彼らというパズルのピースを組み合わせることで1つの作品に仕上げることに長けている人だというのは、昨夏のFIBAワールドカップでの成功などが示している。
須田は代表チームにおいて「3Pシューター」という明瞭な役割を得たことで存在感を増した象徴的存在だと言ってもいい。
2月16日、男子日本代表はメディア向けの公開練習を行った。そこで32歳のベテランシューティングガードに話を聞いた。
ワールドカップメンバーに残れなかった理由ははっきりしている。その役割である3Pシュートを大会前に決められなかったからだ。同大会の事前合宿中には自身の、いつものフォームから遠ざかってしまっていたと話していたが「自分の体じゃないくらい」疲労のマネジメントに苦戦し、コンディションが万全ではなかったと吐露する。
2022年のアジアカップでは1試合で33得点するなどの活躍を見せワールドカップロスターへの選出の可能性も高いと思われた彼の名前は、同世界大会の直前で候補者名簿から消えることとなった。
そんな須田の姿が、日本代表のワールドカップ前最後の強化試合の行われた有明アリーナのスタンドにあった。落選した精神的衝撃があったはず。にもかかわらず、だ。
「本当に、清々しい気持ちで終わって、応援したいな、頑張ってほしいなっていう思いしかなくて。あとは、あそこでカットになって、みんなにちゃんと挨拶する場がなかったというか、長い期間ずっとやってきた選手たちだったし、『ありがとう』の一言を言わずに去るのは僕の中では気持ちが悪くて。そういうのもあって、最後『頑張って』と言いたかったといのも、理由としてはありました」
落選をホーバスHCから言い渡された時も、自身の成長を促してくれたことに対する感謝の念を伝えた。
「トムさんの体制になってから約2年。間違いなく選手として成長させてもらいましたし、ワールドカップで駄目(落選)でトムさんと話した時には、自分はやりきったし、清々しい気持ちで、ここまで引き上げてもらったことに感謝がある、ということを伝えました」
3Pの精度を示すことができればパリも見えてくる
ワールドカップの舞台には立てなかったが、パリオリンピックのロスター入りを目指していく。ホーバスHCに「引き上げてもらった」成果はBリーグでも出ている。今季の平均9.7得点と6.6本の3P試投数はいずれもキャリア最高の数字で、3Pの成功率も36.7%と高い。
ホーバスHCが筆者に「Such a nice guy(本当に素晴らしい男)」だと話したことのある須田は、役割である長距離シュートの精度さえ示すことができれば、パリへ向けて再び有力候補となってくるのではないか。
須田本人にそう言うと、彼も大きくうなずきながら同意した。
「おっしゃる通りで、本当にそこだと思います。長くトムさんの体制でやってきてどういうバスケットを体現するというところは自分なりによく理解しているつもりです。ただ最後に決めきるっていうところ……実際、ワールドカップを見て、また今回の合宿の前にミーティングがあっていろいろとフィードバックもありましたが、『キャッチ・アンド・シュート』をもうちょっと伸ばさないといけない』という話もありました。自分の役割は同じなので、そこ(精度)を乗り越えられられれば結果はついてくるのかなと思います」