©Kaz Nagatsuka
選手が高みを目指す意欲に目覚め、その過程を観察することは、スポーツを観る者にとっての醍醐味だ。
京都ハンナリーズの岡田侑大は、そういう選手の1人と言える。
10月19日。京都はLala arena TOKYO-BAYで千葉ジェッツとのシリーズ第1戦に臨み、92-89で敗れた。接戦の展開から第3クオーターに千葉Jが爆発し19点もの差をつけ、勝負は決まりかけたようにも思われた。が、最終Qに追い上げた京都が一時、2点差にまで詰めるなど、今シーズンの彼らが前年までとは違うのだという粘りを示した。
追い上げを牽引した1人が、京都に来て2年目となる26歳の岡田だった。川嶋勇人、アンジェロ・カロイアロ、ジョーダン・ヒースらが加入し、岡田いわく「どこからでも点数を取れる」今シーズンの京都。PG/SGの岡田もこの試合の第3Qまでは周りを巻き込みながら攻めることを意識していたというが、それが機能しなかったことで、最終Qでは「自分が行くしかない」と切り替えた。
結果、岡田は最終Qだけで7得点を挙げ、先述した追い上げの中心となる躍動を見せた。同Q、岡田は重要局面でターンオーバーを2つしてもいるが、リスクを負ったプレーと良いそれは表裏一体の面がある。京都のロイ・ラナヘッドコーチの岡田への評価は高く、「今日彼は3つのターンオーバーをしてしまいましたが、チームにとってすばらしいプレーも見せてくれました」と彼の責を問わなかった。
岡田の才能は、今になって認められ始めたわけではない。身長189cmの大型ガードは、スラッシャーとして高い得点能力を従前から備えていたし、見せてもきた。しかし、その才能をもっとも低く見積もってきたのは、あるいは岡田本人かもしれない。それは、トム・ホーバスHCの男子日本代表にも招集(2021年の同HCの初陣となった2023年FIBAワールドカップアジア地区予選Window1で1試合に出場)されながら、日の丸を身に着けてプレーすることに「そこまで興味がなかった」という彼の言葉が示している。
©Kaz Nagatsuka
そんな岡田はこのオフシーズンから、ウェイトトレーニングに力を入れ始めるようになったという。抱えていた膝の痛みの原因が「お尻を使って止まれて」おらず「膝を中心に動いていた」ことも、ウェイトルームにより頻繁に足を運ぶようになった理由ではあったが、一方で、ラナHCから「日本を代表するポイントガードになれる」と発破をかけられたこともまた、きっかけだった。
代表入りへの関心の薄かった自身に向けて「なんで興味ないねん」と、ラナHCから言われたという岡田。NBAサクラメント・キングスのアシスタントコーチや男子エジプト代表チーム指揮官の経験がある同氏が「絶対に自分にプラスになるものが得られる」と説いてくれたことに心を動かされたようで、「本当に最近、その通りだなと思います」と意識の変化を示している。
岡田はまた、日本代表の昨年のワールドカップや今夏のパリオリンピックにおける躍進や、河村勇輝(NBAメンフィス・グリズリーズ、2ウェイ契約)や富永啓生(Gリーグ、インディアナ・マッドアンツ)らがアメリカで挑戦する姿に感化されたことも認める。
岡田が言う。
「自分もそこ(世界)に挑戦していきたいなと思って、トレーニングも、世界で通用するためにはこのフィジカルでは絶対無理だということでやってきたので、今シーズンから本当にそこを視野に入れてやっていきたいなと思っています」
ラナHCは岡田がこの先、何年も日本にとってのすばらしいコンボガードになると確信的な口調で述べ、彼やチームとしても彼に対して超えるべきハードルを与えながら背中を押しているという。
同HCはまた、岡田がチームでもっとも練習をする選手の1人で、競技に対する姿勢についてもほとんど手ばなしで讃辞を贈る。
「日本は彼という選手がいることを喜ぶべきですし、侑大にはそのポテンシャルがあります」(ラナHC)
京都は20日の千葉Jとの2戦目にも敗れたものの、今シーズンはここまで3勝3敗で来ている。冒頭でも触れたが、わずか17勝(43敗)で西地区最下位に沈んだ昨シーズンとは異なり、どんな相手とも伍して戦えるところを見せている。
岡田は19日の試合について、フィジカルなディフェンスで知られ、以前は「苦手なタイプだった」という千葉Jの原修太に守られても「少し余裕を持ってプレーできていた」とウェイトトレーニングの成果を実感させる発言をしている。
今シーズンはここまで、キャリアハイとなる平均15.7得点を記録する岡田。どこからでも点が取れるチームではあるとはいえ、勝負を決める得点やプレーをする責を背中に背負うのは、エースプレーヤーの彼であることに異論はあるまい。