©Kaz Nagatsuka
篠山竜青は、Bリーグのなかでも格別、言葉にこだわりのある人だという印象は強い。
だからこそ、思いの発信については慎重なところがあるかもしれない。
10月25日。篠山の川崎ブレイブサンダースは群馬クレインサンダーズとのシリーズ初戦に臨み、89-62で敗れた。
前半の川崎は悪くなく、第2クオーターにアリゼ・ジョンソンのボールプッシュからのパスから3Pシュートを複数決めるなど勢いを得て26得点し、44-38とリードしてハーフタイムを迎えた。
ところが後半は、第3Qは13得点、最終Qにいたっては5得点と完封された。群馬のディフェンスの強さは織り込み済みだったはずだが、川崎はディフェンスも機能せず、相手に外から、内からとやりたいようにやられてしまった。結果、後半だけで群馬には51の失点を喫した。
試合後、川崎のロネン・ギンズブルグヘッドコーチは、怒りを通り越して、やるせなく脱力してしまっていたようにも感じられた。
「まず、試合の後半について触れなければならないと思います。われわれはいい出だしを見せましたし、前半はいいシュートを決めていました。ところが後半の出来は恥ずべきものでした。どの選手もコーチも、ファンたちに対して謝らなければならないと思います」
試合を振り返ったギンズブルグHCは、こうも述べた。「試合は戦いです。気持ちです」。熱量を示すことのできなかったチームに対しての落胆は、明白だった。
プロスポーツが客商売であることなど、篠山にとってはあまりにわかりきったことで、彼も実際、若手選手らなどには「チケットが売れなかったりスポンサーが離れてしまうと僕らの存在意義がなくなる職種」で、勝てない中でもやるべきことを「遂行しなければ給料がもらえなくなる」と説いている。
ただ一方で、プロのバスケットボール選手である以上、ふがいない戦いぶりを見せたのならば、コートの上でのプレーぶりでこそそれを挽回すべきだと、迷いのない口調で36歳のベテランは言う。
言葉というものが軽くなりがちであると、言葉を大切にするからこそ、篠山は慎重だった。体たらくを見せた試合の後、口で申し訳なかったと頭を下げることはできる。が、彼にとってそれは軽く、反対に「お客さんへの裏切りなんじゃないか」(篠山)と思う行為。プロならば、プレーという言葉でこそ真意を伝えられるはずだというのが信条なのだ。
苦しいが、チームの成長が楽しみであることに変わりはない
©Kaz Nagatsuka
川崎は、26日の群馬との2戦目にも敗れ、今シーズンの戦績を2勝7敗とした。うち20点差以上をつけられての黒星は、先述した25日の試合を含めて3つある。
ただ、それでも、篠山はうなだれることはしない。新指揮官を迎え、多くの新戦力が加入した今年のチームが容易にうまくいくはずもなかったが、球団初の外国人指揮官の指導の下、練習と試合をこなしていくうちにその時がいつかくるのだという大きな伸びしろに期待するところがあるからだ。
苦しい、ということで言えば、晩年のニック・ファジーカスさん(昨シーズンいっぱいで引退)という”柱”がいながら、しかしなかなか思うように戦い、勝つことのできなかった彼の晩年のほうがより「どん底」だったと、篠山は言う。
「だから」
篠山が話す。
「その頃に比べるとここから何を変えて、どうやって成長していけるかということを考える余地があるのは楽しいです。未来をイメージしながら改善していくのは楽しいです」
お金をもらってプレーをしているプロならば、気持ちが入らずに敗れた時に責を負ってしかるべきだ。罵られても、しかたがない。
9試合で20点差以上をつけられてコートを去る試合が3度もある川崎は、荒波を泳ぐような厳しい情勢にある。超満員の際には5千人以上を飲み込むホーム・とどろきアリーナでこなしたここまでの6試合での観衆は、いずれも4千5百人を割っている。勝敗はともかくふがいない戦いぶりを続いた時に客足がどうなるかも、気がかりだ。
しかし、繰り返すが、どういう状況にあってもチームと選手たちにとっての弁舌は、コート上で見せる戦いぶりであるべきだと、篠山は考える。