今季で引退のニック・ファジーカス「残りの試合、故障してしまおうとも息切れしてしまおうともかまわない」
キャリア最後のシーズンながらプレーオフ進出の可能性が小さくなりつつある元BリーグMVPだが、シーズン残りの9試合ですべてを出し切る意気込みだ
©Kaz Nagatsuka
ニック・ファジーカスの今シーズンをもっての引退は1つの大きなトピックだが、彼をいい形で送り出そうとする川崎ブレイブサンダースに対して厳しい現実が容赦なく襲いつつある。
4月5日からの広島ドラゴンフライズとの2試合に敗れ、痛恨の4連敗となってしまった同軍が、ファジーカスという華々しい活躍を見せてきた男の最後をプレーオフの舞台で終わらせてやることができない可能性が高くなってきている。
それでも、10日に同じくポストシーズンの椅子を掴み取ろうと必死な同じ中地区のサンロッカーズ渋谷を相手に80-52と快勝を収めたことで、何とか一縷の望みを残した。38歳も28分以上コートに立ち続け、17得点、10リバウンドと奮闘を見せた。
上述の広島戦では欠けていた激しさがこの試合では出だしから発揮できたと振り返ったファジーカスの表情や口調からは、希望を残したことに対しての安堵のようなものが感じられた。
「あれだけ負けが込んでしまうとチームは当然、自信を失ってしまっていたし、それは何というか、黒い雲が頭上にずっととどまっているかのようだった。でも今日の試合の僕たちは良いプレーができたし、みんなも笑ったり、微笑んだりしていたし、良かったよ。残りは9試合あって次は信州(ブレイブウォリアーズ)へ行くわけだけど、今日の勝利をきっかけにいい戦いができればと思うよ」
広く知られるように、ファジーカスは昔痛めた足首の故障の影響で機動力に欠けてきた。それでも、10日の試合ではチームがディフェンスからオフェンスに転じるとすかさず全速力で先頭を走ろうとするなど、気持ちの入ったプレーぶりが目立った。
ファジーカスが言う。
「最近、妻にも話したんだけど、僕はシーズンが終わればもうバスケットボールをすることはないし、だからこそ残りの試合であらん限りの力を出し切るつもりで、それでもし故障してしまおうとも息切れしてしまおうともかまわないと思っているんだ」
10日の勝利で川崎は戦績を27勝24敗としたが、依然として中地区の5位に沈んでおり、チャンピオンシップへ進出するには現実的に2つあるワイルドカードの枠を獲得するしかなさそうだ。
それでもBリーグ初年度・2016-17のリーグMVPは、この勝利をきっかけに残りの試合も勝ち続けることに集中すると、言うまでもなく勝負を捨てはしない。
ファジーカスの言葉に、力がこもる。
「仲間たちも僕に良い終わり方をしてもらいたいと願ってくれているし、僕としても最後まで自分は戦力として戦えるのだと証明しなければならない。そこは僕自身にとっての責任で、最後まで諦めるつもりは毛頭ないよ」
「ギブスらとビールでも飲みながら昔話をしたら楽しそうだ」
©Kaz Nagatsuka
ファジーカスは引退の旨を、シーズン前に発表した。事前にそうすることで、みんなに自身の最後の勇姿を脳裏に焼きつけてもらいたいという思いがあったからだ。
10日の試合では、43歳の大ベテラン、ジェフ・ギブスとマッチアップする場面が数度、あった。ギブスは2010年、ファジーカスは2012年の来日で、Bリーグ以前から幾度となくコートで対峙してきた。他ではマイケル・パーカー(群馬クレインサンダーズ)や竹内譲次(大阪エヴェッサ)、竹内公輔(宇都宮ブレックス)といったビッグマンらが同じくBリーグ前からプレーを続け、その中でファジーカスと体をぶつけ合ってきた。
古いファンの中には、こうした選手たちが引退していくファジーカスとのマッチアップを見て、郷愁を誘われる者もいるのでないだろうか。
「ジェフやマイケル・パーカーらには大きなリスペクトを持っているよ。彼らもすばらしいキャリアを送ってきたわけだからね。JBLからNBL、そしてBリーグとリーグの変遷を見てきた僕らが、最初にここでプレーを始めた頃と今とを比べたりしながらテーブルを囲んでビールでも飲みながら話をしたら、きっと楽しいだろうね」(ファジーカス)
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英語メディアの見出しで「Swansong」という単語がしばしば用いられる。Swansongとは文字通りに言えば「白鳥の臨終の歌声」で、詩人や作曲家の生涯最後の作品、あるいは絶筆といった意味となるが、スポーツ選手が一戦を退く際にもまた、よく目にするものだ。
プレーオフ進出へ向けて厳しい位置にいるブレイブサンダースにおいてファジーカスは、残りの試合でどのような「最後の作品」を披露するのだろうか。