©Kaz Nagatsuka
身長に違いはあるにせよ、自陣から相手陣内に全力で駆け込んでいく時の姿が、尊敬するエースポイントガードのそれに似ている。
だから、というわけではないが、名古屋ダイヤモンドドルフィンズが今シーズン、加藤嵩都を齋藤拓実のバックアップとして獲得したのも、納得がいく気がする。
斎藤がベンチに下がる時でも、同じようにスピードを売りとする加藤がコートにいることで、チームは攻撃的なプレースタイルを貫くことができるからだ。
そんな加藤が1月12日のアルバルク東京戦で、前日の試合で負傷した齋藤に代わって先発PGを担った。2023-24年はB2・福島ファイヤーボンズで先発司令塔だった加藤だが、B1では初めてのこととなった。
試合は、5連敗中だったA東京が試合出だしから強度の高いプレーぶりで主導権を握る。名古屋DDも中盤の猛攻で追いつきかけるが、その後、ホームのA東京が引き離し、77-69で勝利した。
加藤は試合後、Q1における自軍の「重さ」について言及し「個人的にはもっと作れたことがあった」と司令塔として敗戦の責を負った。
ただし、先述の通り名古屋DDは齋藤不在でも自分たちのスタイルに立ち返りながら挽回をし、最大17点あった差を一時は2点差にまで詰めるなど、勝負はできた。齋藤の穴の大きさが否定しようもないことだった一方で、加藤(PG/SG坂本聖芽も主にディフェンス面で貢献した)のプレーぶりがその穴を極力小さなものにできていたことの証左でもあった。
名古屋DDのショーン・デニスヘッドコーチも「嵩都はすばらしかった」とし、敗戦の中にチームの手応えを感じた様子だった。
デニスHCはこうも述べた。
「拓実のような優れた選手の不在はもちろん痛い。多くのチームで彼のような主力にけが人が出れば苦戦を強いられます。アルバルクが格好の例でしょう。彼らは(PGテーブス)海が欠場して苦労をしました。ですが、私たちのチームの層が厚く、その中でやりくりをする中でも十分戦えるというところを見せられたと思います」
先発ラインナップに名を連ねたことについて加藤は「拓実さんがいなくても『嵩都がいれば何とか(ゲームを)運べる』みたいな感じでは思ってもらいたかった」と話した。今シーズン初めてB1の舞台に足を踏み入れ実力を示す必要がある立場で、初先発の試合で力量を見せることができたと言えよう。
もっとも、この試合を通じて加藤がより自信を深めたかといえば、どうやらそうではない。前々から持っていた。あとは、その自信大きさに違わぬレベルのプレーぶりをすることこそが、彼にとって通過すべき関門だった。
「自信だけはかなりあります」
加藤は、そう言う。声を大きくそう述べたのは、自信の純度の高さを表していたとしていいだろう。
「去年、福島で、B2でやってきたんですけど、その自信も今につながっています。常に戦えないわけじゃない、負けないっていう自信はあるんですけど、名古屋に来てからあまり結果としては出ていないので、やり続けるしかないというか。僕の中では周りの評価が僕の自信に追いつくまで、粘り強くやっていくしかないと思っています」
速度のないところから一気に加速してリングへ向かう爆発的な速さについて、とりわけ大きな強みだという自負を持っており、1対1では負けないという矜持もある。12日のA東京との試合でも、相手ディフェンスの間隙を縫ってリングをアタックし、レイアップを決めた場面があった。序盤からA東京のフィジカルさに圧され気味だった名古屋Dに、勇気をもたらす得点だった。
これについて聞かれた加藤は「フィジカルにはやっぱり強みでしか対抗できないというか」と語っている。彼の弁舌は、トップディビジョンで初めて戦う24歳の若者(福島以前はB3さいたまブロンコスでもプレーしている)にしては意外なほど歯切れがよく、かつ、やるべきことを理解している落ち着きを感じさせるものだ。
それゆえに、爆発的なスピードがあるから、1対1が強いからといって、真のトップ選手になれるわけではないことも十全に理解している。172cmの齋藤(加藤は178cm)もスピードが売りではあるものの、彼の場合は緩急をつけながらリングへ近づきつつ、自身がシュートにいくべきか、味方へパスをさばくべきかを見極めている。闇雲に走るわけではない。その技こそが、彼をBリーグ屈指のPGにしているのだ。
プレーのスピードについて加藤は「最大値ではなくて、その前の、コントロールする、緩やかさというか軽やかさというのはすごく意識しています」と話す。
加藤は齋藤を「教科書的な存在」と話している(12日の試合後には齋藤から改善点やPGとしての考え方についての助言があったそうだ)。齋藤の真似をするのではなく、加藤は加藤で自身のスタイルを作り上げていきたいと語ってはいるが、チームを勝たせるガードになるために齋藤のような手本が目の前にいることを、生かさない手はない。
確固たる自信があるのは、目指す場所が高いから。加藤は自身を「日本一の選手になれると信じている」と話す。その過程においては当然、日本代表チーム入りも視野に入る。
加藤は、試合を重ねるごとにコート上で徐々に余裕を持つことができるようになっている手応えを感じているという。
チームはここ11試合で8勝3敗と調子をあげつつあるが、シーズン全体では16勝14敗と中地区の5位に沈む。
加藤はここまで、平均9分半ほどの出場で同3.8得点、1.3アシストを挙げている。数字的に目立つところはないかもしれない。だが、この数字のいずれもがこれから増えていくに違いない。
加藤は、後半戦の名古屋D上昇の鍵を握る選手だ。