3Pライン外からのシュートが入る。また、入る。どうしたのだ、と思うほどに。
3月12日の水曜ゲーム。横浜ビー・コルセアーズは出だしのクォーターだけで放った9本の3Pのうち7本をねじ込んでみせた。このクォーターで、30点もの得点を奪ってた。
シュートは水物だと言われる。だがそのことは、「偶然」とは同意ではない。決まるにせよ外れるにせよ、そこには一定程度の必然性が伴っているはずである。
現に、横浜BCが決めた3Pの多くがワイドオープンから放ったシュートによるものだった。試合とを押して26ものアシストがついた。選手とボールがよく動いていたという証左であっただろう。
選手とボールが動く。今シーズンからフィンランド代表チームヘッドコーチのラッシ・トゥオビ氏を指揮官として招聘したチームが、当初から志向してきたバスケットボールだった。
シーズンは3分の2ほどを消化してきたが、横浜BCがそれを十全にできるようになってきている。
強くなった、とは言い切れない。それでも、内容は明らかに良くなってきた。2月のFIBAブレーク後、同軍はサンロッカーズ渋谷との連戦をスイープし、三遠ネオフェニックスとのアウェイ戦ではこのB1トップ勝率チームをあわや倒しかけた。
河村勇輝(NBAメンフィス・グリズリーズ2ウェイ契約)が急遽、チームを離れることとなったことで外国籍選手の編成に変更を加えることが余儀なくされ、さらにケガ人が出るなどもあって出遅れた横浜BCは、なかなか志向するバスケットボールを高いレベルで遂行することができなかった。
ホームゲームには毎回、多くのファンが訪れていただけに、歯がゆさは間違いなくあったはずだ。
どのチームにもやり返したい
ようやく、という言葉を伴ってはしまうものの、愚直に自分たちを信じてきたチームがその力量を発揮し始めた。
チームのポイントガードでキャプテンでもある森井健太は、横浜BCが「チャンピオンシップに出るのが目標」で、「それを成し遂げられるメンバー」が揃っていると話した。
激戦の末、自分たちと同じ地区の上位にいる三河を86-85で破った横浜BCは、これでシーズンの戦績を17勝24敗とした。B1中地区、8チーム中7位。ポストシーズンに進出する可能性は、限りなく薄い。
しかし彼らは、前を向く。
「まだ(シーズンは)終っていないですが、前半戦、ケガ人が出たというのがすごく大きかった中で、今はCS(チャンピオンシップ)圏内のチームにとっては本当にダークホースじゃないですけど、怖がられるようなチームになってきているんじゃないかと思います。どこが相手でもしっかり自分たちのバスケットができれば勝てるというのがすごく見えてきています」
三河戦後、森井はそう語った。試合後にはダミアン・イングリスが全体に向け「これが勝てるチームのメンタリティ」だと話したそうである。
12日の試合までに三河とはすでに3度対戦しており、19点差、17点差、18点差といずれも完敗を喫していた。三河以外との上位チームとの対戦でも、やはり点差をつけられて敗れることがシーズン前半戦までは多かった。
「三河だけじゃない」
三河に対してやり返してやりたいという気持ちはあったかと問われると、現在チームのトップスコアラーであるゲイリー・クラークはそう返した。
「やり返したいと思っていた相手は、全員さ。三遠にしても三河にしてもアルバルク(東京)にしても僕たちは痛い目に遭わされてきたからね」
クラークは、新指揮官を迎え、アジア枠を含めて外国出身選手はすべて新規のチームがリズムをつかむのには難儀したと語る。だが、その苦悩の時期は過ぎ去ったとしていい。
クラークは、横浜BCの選手たちが自身と味方の役割を深く理解できるようになっていることが、どのチームが相手であろうとも伍して戦えるようになってきている理由だとした。
「ダミアンがどういった場面でボールを欲しがっているか、ゲイリーがどこでボールを持つべきなのか、キーファーはどういった時により積極的にいくべきなのか、マイク(・コッツァー)をどうプレーに取り込むべきなのかを皆がよくわかってきている。今日の試合でも、僕らのガード陣はそのあたりを理解しながらすばらしい仕事をしたと思っているよ」
クラークは続けて、こうも話した。
「今の僕たちは試合を通して自分たちのリズムでプレーすることができている。(3月5日の)三遠との試合はどちらが勝ってもおかしくなかったし、実際、自分たちが勝つべきだった。そういった試合をしてきたから今では多くのチームが僕たちの試合を確認しているはず。横浜のバスケットボールは本当に面白いものとなっているし、人々は興奮を覚えるようになりつつある」
冒頭で触れた3Pの雨。横浜BCは試合を通して12本を決めている。試投数は27だったので、成功率は上出来の44.4%だった。選手たちのいずれもが、ボールを受け取ってまったく逡巡することなくシュートを放っていたことが印象的だった。
今シーズン、33得点を挙げる試合もあったクラークは、自身のチームでの役割を「リーダーシップ」だとし、森井や松崎裕樹らには常に思い切ってシュートを打つように話しているという。オーランド・マジックなどに所属しNBAでは通算170試合に出場。イラワラ・ホークスでプレーをした昨シーズンは豪NBLのベスト5にも選ばれているベテランは、バスケットボールにおける精神的な部分の肝要さを説く。
「僕は最もレベルの高いところでのプレーをしたこともあるし、その中で辛い時期も経験してきた。だから選手たちが精神的に自信を失ってスランプに陥ることも、そこから抜け出すのが大変であることもわかっている。僕は味方に大声で声をかける人間ではないけど、個人的に選手たち1人、1人に話しかけて、自信を植え付けるようにはしているんだ」
「どうだ、みたか」とは言わない
3連敗を喫していた三河に対して1つ「お返し」ができたことについてトゥオビHCは、チームの実力を示すことができたと同時に、3つの敗戦が選手たちに火をつけていたと話した。
一方で横浜BCは変わらず、粛々とやるべきことをこなしていくと同HCは言う。昨今の好調によってリーグに存在を示しているかトゥオビ氏は、「他者のことに考えを向けるべきではないし、向けるべきは自分たちのできることを信じて、積み重ねていくこと」だとした。
今の好調の前にも、チームは宇都宮ブレックスや千葉ジェッツ、群馬クレインサンダーズといった上位のチームを破る試合もあった。が、なかなか白星を重ねることができなかった。換言すれば、波が激しかった。
FIBAブレーク以降、3勝1敗。彼らが波に乗ったと言うには、十分な試合数でない。
「これを続けていけるのがチャンピオンシップに出るチームだと僕は思いますし、ケガ人がでたからとかそういうのは言い訳にしか過ぎないというか、どこのチームもケガを抱えている選手がいると思うので、その中で勝っているチームが今、チャンピオンシップ圏内のチームです。
(僕たちとすれば)そういったところとどれだけやれるかが今シーズンの1つのチャレンジですし、それがもしかしたら来シーズンやこれからのBコルにつながっていくんじゃないかと僕は思っているので、本当に残りの試合、やっていくのが楽しみな、そんなチームになってきたかなと思います」