©Kaz Nagatsuka
良薬口に苦しと言うが、2月の天皇杯準決勝での千葉ジェッツへの敗戦は宇都宮ブレックスにとって口の中に苦みを残しながら、しかし大きな教訓になった試合となった。
この天皇杯の試合、宇都宮は最大21点もの差をつけながら、後半に千葉の爆発を許し、屈辱的な破れ方(78-72)をした。
試合後、同軍の佐々宜央ヘッドコーチは、選手たちが千葉のディフェンスの前に横にパスを回すばかりだったことを敗因として挙げた。もちろんチーム競技のバスケットボールにおいて試合を通して戦術や相手へのアジャストメントを戦わせながら上回ろうとするわけではあるが、「シュートを打たなければ勝てない」という至極、シンプルかつ根本的なところが黒星の原因になったと強調している。
27日。宇都宮は天皇杯と同じ船橋アリーナに乗り込み、千葉と対峙した。同軍が前半で大きく点差を広げ、千葉が後半に逆襲に転じるという展開自体も2月の試合と似通っていた。
しかし今回の宇都宮は「雪辱戦」を耐え抜き、勝者としてコートを去った(93-70)。最大32点のリードを一時は12点にまで縮められた時には、あるいは再び、天皇杯と同じ結果になるのではないかという空気が会場に漂ったが、宇都宮がそれを拒んだ。
一言で、力強かった。追い上げられても、やり返してやろうという気持ちが見えた。天皇杯で横に回り続けたボールは、DJ・ニュービルや比江島慎らがペネトレーションをしたりグラント・ジェレットのポストプレーなどで中に入り、そしてそこから展開が発生することでズレを生み出していた。
何よりも、シュートに思い切りがあった。ニュービルや渡邉裕規、ジェレットらは「しかたなく」ではなく、ねじ込む意思をもって3Pを放ち、決めた。
宇都宮はこの試合、46.2%という高確率で3Pを決めたが、一方で25ものアシストを記録した。よくボールが回ったことでシュートをオープンで打つ機会を作り出せた証左と言えるだろう。
3Pを4本沈めた渡邉は「戦術とかフォーメーションではないシンプルなところ」ができていたことで宇都宮は前半で点差を広げることができ、後半、差を詰められたのはそれができなかったからだと、この試合に勝ちきれた理由を端的に語った。
「盛り返される時って打てるのに打たなかったり、すごい雑なパスでターンオーバーが続いたりして3Pを入れられてしまう。相手に(後半)早くに点を取られてこっちがミスっちゃってと、ただそれだけなんですよ。だからタイムアウトがあった時にはもうシンプルに『やろう』と。楽しんでやればいいし、シュートなんて入らないときは入らない。ただ、打たないと入らないわけだから、打てと。
(選手それぞれに)役割はあるけど、みんなで作ったオフェンスなのに1個、シュートを打たなかったりすると24秒になっちゃったりとか、それって一番リズムを失うので。そのリズムを失わないためにもシンプルにやれっていうのは、12点差になったくらいの時にはタイムアウトで言いました」
佐々HC「このチームは日本一になれる」
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今年の宇都宮は比江島と新加入のニュービルというボールハンドリングもシュートもうまい選手が増えた。だが、これはどのチームも、流れが悪くなった時、エース級の選手たちにボールを預けすぎてしまうことがある。天皇杯の宇都宮もそうだったが、その苦い教訓を今回の勝利につなげたのだ。
「もう本当に単純って言っていいほど、打ってほしいです」
佐々HCはそう勝利を振り返った。
「なんで打たないの、というのが今日も何回かありました。そういう時ってリズムが悪くなりますから。あとは、ただ打てば言いっていう話じゃなくて、その後にオフェンスリバウンドに行くことも意識してやっているので、タイミングが悪いと結局、リバウンドにも行けないです」
佐々HCは天皇杯を振り返って「悔しがらなかった選手がいっぱい」いたと述べた。渡邉を含めコートに立つことのなかった4名は悔しがる機会がなかったということにほかならない。そこはエースに頼りすぎてしまったという点で、同HCにも反省をもたらしたが、27日は全12選手が出場するなど、よりチームを強調した戦いぶりとなった。
宇都宮はこれで球団記録の16連勝を収めた。が、言わずもがな連勝記録を目指してやっているわけではない。佐々HCは「天皇杯で優勝ができなかった悔しさが試合中にこみ上げ」てきたと吐露し、「このチームは日本一になれるチームだと思っているので自分がどれだけ選手たちを手助けできるか」と、5月のチャンピオンシップで頂点に立つことに目付けをする。
それを成就するための鍵の一つは「シンプルにやること」か。
渡邉が言う。
「いままで2回、チャンピオンシップを取った時も、ルーズボールやリバウンド、フィフティ・フィフティのところでどっちが取るかというところが最終盤で大事だったので、今、16連勝という数字が出ていますけど、それ以上にあと2か月くらい、続けていかなきゃいけないことかなと思います」