第3クォーター半ば。ディフェンスリバウンドを取った横浜ビー・コルセアーズは、すかさずオフェンスに転じ相手のディフェンスの準備が整わないのを間隙をついた。
何度もパスを回す中からトップ・オブ・ザ・キーでオープンになった大庭岳輝が、リードをちょうど10点差とする3Pシュートをねじ込むと、サイドラインのラッシ・トゥオビヘッドコーチは左腕を激しく振りかざすガッツポーズで興奮を示した。
その興奮という電流は横浜BUNTAIの観客席を、そして天井と壁をビリビリと走った。
同じ会場で行われた、その前の節での試合では伝わらなかった刺激だった。
4月19日からの名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの2戦で、横浜BCはひどく頭を殴らるような屈辱を味わった。2試合とも、相手に99点もの得点を奪われ大差をつけて試合を終えたのだった。
マイク・コッツァーとキーファー・ラベナという通常、先発ラインナップに入る主力を欠いたことは無論、大きかった。しかしそうしたことはどのチームにもあることと、トゥオビ氏はそれを敗戦の理由として求めなかった。
いつもならば敗れても前を向く発言と姿勢を示す同HCも、44点差で敗戦した1戦目の後「間違いなくショックを受けています」と顔をこわばらせた。指揮官は、以下のように言葉を続けた。
「自分たちがどのように準備をしてきたか、どのようにこの試合を戦おうとしていたのか。この試合はコーチから選手まで全員が鏡を見て振り返る必要のあるものの一つとなりました。私たちはこれ以上の戦いぶりができるはずですし今日、私たちの戦いぶりは受け入れがたいものです」
あいにく、翌日の2戦目でも同チームは力なく敗れた。トゥオビHCは連日の大敗に「チームの自信は低くなってしまっている」と淡々と述べている。
アリーナに電流が流れたのは、そこからわずか3日後である。立て直しのためにチームに与えられた時間は、つまりは2日間でしかなかったということだ。
なのに、横浜BCは見違えるほどの戦いぶりを見せた。相手は今シーズンB1最高勝率を争ってきた三遠ネオフェニックスだった。試合には敗れ5連敗目となってはしまったものの、訪れたファンの心を揺さぶることは確実にできた。
コレクティブにプレーする中で自分を出す
何があったのか。
トゥオビHCは、前日練習で「良い練習ができ、選手たちのやる気が高」くできたと話した。実際、選手らはコート上で激しく体をぶつけながら文字通り戦った。人もボールもよく動く、チームが志向せんと苦心してきたバスケットボールを多くの時間帯で実践した。
ポイントガードの森井健太は名古屋Dとの2試合について「体もそうですけど、メンタル的に堪える週末だった」としたが、「火曜日の練習は良かったからいい試合ができると思っていた」と指揮官と口を揃えた。
先述の名古屋Dとの1戦目の後、トゥオビHCは「誰か他の人に自分を生かしてもらうのではなく、自分で自分を生かしてほしい」と述べた。チームのために自身を滅してプレーをすることの美徳についてはしばしば語られるものの、こうした言葉は珍しいと言っていい。
だが、チームとして戦うことは自身という個が薄れてしまうことと表裏一体である。チームとしてのプレーのために自身の良さがなくなってしまっては、本末転倒なのだ。三遠戦に入るにあたってトゥオビHCや森井が「良い練習ができた」と語ったのは、選手たちがそこを再認識したからではないかと推察される。
「自分の良さをチームのために出すことはすごく大事だと思っています。例えば大庭選手だったらそれはシュートだと思うし、彼は外れても打ち続けます。(横浜BCのバスケットボールは)コレクティブ(集団的)だと言われますが、自分の良さを出していく中でプレーをしていかなきゃいけない。ただ、自分が得意ではないことを表現しすぎるとやっぱりうまくいかないと思うんです」
森井はこう話した。
ビーコルに「消化試合」はない
チームとして戦うことと自身の得意なものを出すこと。3月の良いゲームができ始めていた時の横浜BCでは、このある意味で難しいバランスが取れていたと森井は語った。
おそらく、そのバランスは少しのことで崩れてしまうのだろうし、強いチームではそれがなかなか崩れないからこそ好成績を残すのだろう。森井は彼のチームに「スーパースターはいない」とした。そんな横浜BCというチームではその均衡を取ることはあるいは他のチーム以上に重要なことであるはずだ。
2年ぶりのチャンピオンシップ(CS)進出は果たせなかったものの、強豪の仲間入りへ向けて階段を上っていく計画を立てている横浜BCにとって「消化試合」はない。
名古屋Dに対しての痛切な敗戦後、トゥオビHCは「成長は心地よいところにいては起こりません」とした。彼はまた「この週末は順位表のためではなく、私たちのチームが将来的により良いチームになるための助けになる」とも述べている。
森井は「ビー・コルセアーズっていうチームはまだまだ続いていくと思います。そこ(将来)へ向けてできることをやっていきたい」と言葉に力強さを加えながら話した。
人とボールが動き続ける中から得点が決まる時の快感たるや。彼らが彼ららしいバスケットボールを展開した時に会場に走る電流は、ファンに得も言われぬ興奮をもたらすものだ。
横浜BCのシーズンは閉幕に差しかかってきたが、彼らが激しさを失った戦いぶりをすることはもうないのではないか。