©Kaz Nagatsuka
昨年のFIBAワールドカップ前。強化試合のため韓国・ソウルに遠征した男子日本代表チームを取材した際、練習後だったか試合後だったかは失念してしまったが、体育館から宿舎まで引き上げるためのバスに乗り込む渡邉飛勇の腰辺りに思わず、触れてしまったことがあった。
渡邉のユニフォームはこれ以上はないというほどに汗で濡れていた。真夏だったこともあっただろうが、トム・ホーバスヘッドコーチの厳しい指導の下、彼が激しくプレーをしていることを汗を大量に吸ったユニフォームが示していた。
9月22日の天皇杯2次ラウンド、渡邉の所属する信州ブレイブウォリアーズと川崎ブレイブサンダースとの試合を見ていて、そのことを思い出した。この日も渡邉のユニフォームは明らかに汗で濡れていた。
昨シーズンまで所属した琉球ゴールデンキングスではジャック・クーリーら外国籍ビッグマンが多く、渡邉の出場機会はおおよそ平均5分程度と限られていた。それゆえ、今シーズンの彼はこれまで以上に試合で大量の汗をかいて、アスレティックトレーナーから何枚もタオルを受け取って、それをぬぐわねばならくなるかもしれない。
無論、それは渡邉にとって待ち望んでいたことだ。
「すごく楽しいですね」
昨シーズン、B2に降格した信州は川崎に敗れたものの、善戦を演じた。試合後の渡邉は悔しさを滲ませつつも、約16分の出場時間を得た前日の愛媛オレンジバイキングス戦に続き、この日も18分近くコートに立った。そのことについて問われると、噛みしめるかのような間を取ってから上のように答えた。
「これだけの出場時間をもらえるのは6年ぶりくらいで久しぶりです。これだけ長く出ることはなかったので、まだ3分しか出ていない時のような感覚です。(そういったものを体で覚えるのは)これからですね」(渡邉)
オフェンスでも味方を楽にプレーさせるなど貢献する
©Kaz Nagatsuka
もっとも、コートにいる時間が長くなるということはそれだけの責務がともなう。上記の川崎戦で信州は終盤までリードしながら、逆転を許してしまった。渡邉は敗戦を「自分のせいで負けた気持ち」と語った。
信州はB1復帰を成し遂げるという強い意志の下、渡邉やペリン・ビュフォードなど大幅な補強を施している。とりわけ2度のB1得点王でアシストも多い、ビュフォードの加入で、これまで固いディフェンスで相手の得点を抑えるスタイルだった信州が、点の取り合いもできるそれを手にしたことを意味する。川崎との試合が98-91と高得点だったことは、その一端を表している。
川崎は新加入の外国籍、サッシャ・キリヤ・ジョーンズを故障で欠いたこともり、ビュフォードが出ていた時間帯は彼に手を焼いた。ビュフォード自身の得点は8に終わっているものの、信州は時に純然たるポイントガードがいないビッグラインナップも駆使しながら、ビュフォードがボールハンドラーとなり起点となる時間帯も多かった。それにより、川崎のディフェンスはビュフォードに集中し、彼のアシストパスから失点する場面も少なくなかった(ビュフォードのアシスト数は12だった)。
207cmと長身でアシストの的となりやすい渡邉は、ビュフォードからのパスを何度ももらったが、勝負どころで決めきれなかったことが敗因になったと自らを責めつつ、ビュフォードの特殊なプレースタイルに慣れる必要があるとした。
ビュフォードとのコンビネーションだけではない。渡邉はリバウンドやブロックなどディフェンスの印象が強い。日本代表でも、パリオリンピックでフランスのルディ・ゴベアをブロックするなど、やはり目立ったのはディフェンスだった。しかしながら、信州ではオフェンス面での貢献も必須と感じている様子だ。
「必ずしも自分の得点だけではなくて、流れをきちんと読みながら味方がより楽にプレーができるように動かねばなりません。例えば今日のウェイン(・マーシャル)はシュートをすべて決め、ディフェンスもすばらしかったし、味方のためにスクリーンもよくかけていました。ほとんどミスをせずに、味方が楽にできるような仕事をしていました。それこそが僕の目指すところです。今日の僕は(最初の)3クオーターではできていたんですけどね」(渡邉)
敗戦の責を負った渡邉だが、より出場時間の期待できる信州に来て、そして得意のディフェンスだけでなくオフェンスでも成長を遂げることで「最高の日本人ビッグマンになれる」(渡邉)可能性を自身に感じている。
そして、その可能性は信州というチームの可能性にも関わってくるように思える。