顔に「疲労困憊」の文字が浮かんだジャック・クーリーは、それでも「雑念を排除」して重要なシュートを決めた
歴史的な激戦となった琉球と三遠のCS準決勝2戦目終盤に、34歳は淡々とフリースローを決め続けた
「バサッ」
そんな音でもしているかのように、フリースローはリングにもほとんど触れることなく網の中心に落ちていった。
Bリーグファイナル行きをかけたあまりに重要な試合の、あまりに重要な場面であることをまるで彼が意識をしていないかのように、ジャック・クーリーはあまりに淡々とフリースローを決め続けた。
チャンピオンシップ・セミファイナル、第2戦。初戦を落とした琉球ゴールデンキングスは2度の延長戦という激戦の末に100−98で三遠ネオフェニックスを破り、シリーズをタイとした。
試合は終盤から一進一退となり、なんどもビッグプレーが生まれた。その最たるものは、第4クォーターに試合を延長に持ち込む、松脇圭志の奇跡的な同点シュートだった。
人々の脳裏に強く焼き付いたのは、当然、そうした「大きな」得点場面だ。ただ、この試合を琉球が獲った要因にはクーリーやアレックス・カークらビッグマンがもらったフリースローを着実に決め続けたことも挙げていい。
両者ともシーズンでのフリースローは80%を越えており、ビッグマンとしては高確率だ。とは言え、琉球にとっては負けたらシーズンが終りを迎えるという試合であり、しかも2度も延長を戦えば、終盤以降に体力はかなり消耗しているはずだから、そうしたシーズンの確率は、あてにならないところがあるとも言える。
なのに、である。クーリーらはそれがさも「いつものシュート」であるかのように、フリースローラインから放物線を描いた。
気になったのは、いつもはビッグプレー、重要な場面での得点などをした時に吠えたり、手振りを交えながら派手なジェスチャーをするクーリーが、この試合の終盤の重要なフリースローやレイアップを決めても、大きく表情を変えずに淡々と次のプレーへ移っていたことだ。
なぜなのか。理由を問われたクーリーは、このように答えた。
「過去のBリーグの試合で重要なフリースローを決められずに負けてしまったことが2度あった。だからもうそのようなことがないようにと思っていたし、雑念を排除して、自分のルーティンをこなしながらフリースローを打とうと思ったいた。おかげでフリースローを決めることができて、僕たちはまだシーズンで生き残ることができた」
プレー以外のエネルギーは残っていなかった
この質問は、ある意味で愚問でもあった。というのも、三遠にしても琉球にしても故障で欠場する者もおり、前日に続いての連戦を戦う中で、延長ともなればレギュラークラスの誰もが疲弊していた当然だからだ。
クーリーは2度目のオーバータイムの時には「とても疲れていた」こともまた、不要なジェスチャーや咆哮をしなかったことの理由だったとした。
「とても疲れていたから、もうバスケットボールをプレーするということ以外に対してのいかなるエネルギーも残っていなかった。いつもの僕なら感情を注ぎ込むわけだけど、45分(性格には44分49秒)もプレーをすると、もうそういうことができなくなってしまうんだ」
身長206cm、体重115kgの肉体を「振り回す」プレーぶりは、クーリーの最大の武器であり、特徴だ。だが、長くコートに立ち続ければそれが頑強であるだけに、自らの体力を奪うはずだ。
2度目の延長、残り4秒強でクーリーは勝利に近づくフリースロー、2本を決めた。直後に、同軍はタイムアウトを取ったが、その際、桶谷大ヘッドコーチはクーリーのもとへ寄ってきて、何かしら声をかけた。
おそらくは「大丈夫か? 行けるか?」という確認だったはずだ。34歳のクーリーの顔には「疲労困憊」という文字が書かれていた。しかし、だからといって、「いや行けない」という選択肢はなかった。
現に彼は、椅子から立ち上がって最後のプレーのためにコートに戻っていった。
試合終了のブザーがなり、ようやくこの日の決着がついた。
クーリーは、琉球ファンの陣取る観客席に向かって大きく吠えた。