怒らなくなった!? 三遠ネオフェニックス指揮官として2年目を迎える大野篤史HCの変化
「キツい」指導で千葉ジェッツでリーグタイトルや天皇杯制覇に牽引した名将の表情が柔らかくなった。その理由はーー。
2023-24シーズンのBリーグが開幕した。大野篤史ヘッドコーチ体制化の三遠ネオフェニックスは、川崎ブレイブサンダースが相手の第1節を1勝1敗で終えた。試合が敵地だったことや相手が格上だということを考えれば、上々の滑り出しといえるだろう。
この2連戦を見ていて、気になったことがあった。試合中の大野HCの表情が柔らかかったことだ。それどころか、時にアシスタントコーチらと言葉を交わしながら笑顔さえ浮かべることもあったほどだ。
例えば、試合で判定に不服などがあるときに審判へ向けて大声を張り上げるようなことはある。だが、基本的には感情を多く表さない、どちらかといえばポーカーフェイスであるというのがこれまでの印象だっただけに、そこまで表情が柔らかかったことにやや意表を付かれた。
開幕初戦の三遠の勝利後、大野HCにこれについて聞くと「自分がコーチをする上で普遍的なものは変えていない。支えてくれている人たちに勝利を見せること、喜んでもらうことが一番のテーマだ」と前置きし、前任の千葉ジェッツでとは違い、三遠の選手たちが自身の厳しい言葉等をあまりに正面から受け止めてしまうことが、そうした表情の変化等に影響していると答えている。
「前のチームの時は何というか、必要なところはしっかり(頭に)残しながら右から左に流してくれるところがあったんですけど、やっぱり選手の(性格等の)違いもありますし、彼らに合わせて自分のコーチングの変化があったのは事実かなと思います」(大野HC)
真摯にコーチの話を聞いてくれるのはいいが、一方で、言われたことを機械的にこなす、あるいは萎縮してしまうのでは本末転倒だ。大野HCとしては何か言うにしても、それが提言や助言であることもある。が、それを選手たちが「やらなきゃいけないととらえてしまう」(大野HC)という受け止め方の乖離が双方にあったようなのだ。
大野HCが柔和になったことは、彼を知る選手からも指摘されているそうだ。ジェッツで彼の指導を受けていた西村文男からは昨季の段階からすでに「あんまり怒らないよね」と指摘されていたそうだ。
昨年、千葉ジェッツでのアシスタントコーチやその他スタッフら、合わせて計9名が大野HCについて三遠へ移ったが、1年目の昨季は前年(10勝4敗、西地区最下位)から23勝(37敗、中地区6位)へと大幅に勝率を伸ばした。今シーズンは、Bリーグではまだ達成していないポストシーズン進出を狙う。
オフにはコティ・クラーク(前名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)や大浦颯太(同秋田ノーザンハピネッツ)らを補強をし層が厚くなったことで、選手を交代させながら攻守でより強度の高いプレーを目指していく。三遠で4年目に入ったSGサーディ・ラベナは、大野HCの表情が柔和になったのは、今季のロスターの充実から、チーム内の連携が高まれば良い結果が望めると感じているからではないかと語っている。
大野HCから中核としての役割を期待されるPG/SG佐々木隆成は、同指揮官が今季はより選手たちの考えを尊重するなど、柔軟になったと感じていると話した。
「そういうのは、去年はあんまりなかったかな。本当、コミュニケーションは今年、めちゃくちゃ取れていると思っています。去年もそういった感じではあったんですけど、今年のほうが、僕らがコミュニケーションを取れています」(佐々木)
選手たちにはまだまだIQを養ってほしいと願う大野HCだが、今季はチームのゲームプランに則った遂行力の「レベルが一段上がった」とポジティブな期待感も示しており、長いシーズンでどこまで上をうかがうことができるか、見ものだ。
大野氏が2021-22シーズン後にジェッツを離れることになった時、原修太は「めちゃくちゃ厳しくて何回も嫌になりました」と、佐藤卓磨(現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)は「最初はあつさんが夢に出てくるほど練習に緊張感があってキツい時もありました」(両選手とも原文ママ)とSNSに記していることからも、彼の指導の厳しさが「本物」だったことがわかる。
ただ、ジェッツとネオフェニックスでは選手のキャラクターや球団にある文化的なものも違う。
2022-23での初年度を経て三遠というチームをより深く理解した同HCは、新たなコミュニケーションスタイルで2年目のシーズンに臨む。