©Kaz Nagatsuka
今の男子日本バスケットボール代表は、トム・ホーバスヘッドコーチの選手選考の仕方が彼のスタイルに合い、かつ勝利するためにそれを心から信じてやり尽くせる、モチベーションの高い選手たちが集まっている。
換言すれば、必ずしもエリートコースを歩んできた選手たちばかりで構成されているというわけではなく、何者でもなかったところから自らの努力や運などのおかげで、駆け上がってきた者も幾人かいる。
川真田紘也などは、最たる例の1人と言えるだろう。身長204cm、体重110kgの体躯は日本では異彩を放ち、それが昨年、日本が躍進を果たしたFIBAワールドカップで彼を12人のメンバー入りを実現させた要因の1つとなった。
彼のキャラクターもあってこのワールドカップで川真田の知名度は一気に上がることとなったが、彼が日本代表デビューを果たしたのはそのほんの半年前のことで、それ以前はほとんど無名の存在だったといってもいい。
アマチュア時代も全国的な存在でははなかった。中学校から始めたバスケットボールを高校までで引退をしようとすら思っていたほどだったというのが、それを語っている。縁あって奈良の天理大学に誘われ競技は続け、インカレに出るなどの「多少の」実績は築いたものの、プロになることなど入学当初は露ほどにも考えていなかったという。
そんな彼がプロの世界で鍛錬を積み、そしてホーバスHCから見出され、揉まれてきたことで日の丸を付けて世界の舞台に立っている。様々な選手が日本代表候補として呼ばれるが、川真田ほどの成功譚はなかなかない。
川真田は現在、パリ五輪へ向けて強化に取り組む日本代表候補として合宿に取り組んでいる。この合宿メンバーに、川真田と同じ天理大学出身の佐々木隆成(三遠ネオフェニックス)がいる。
東海大や筑波大、青山学院大といった関東の強豪校ならそうは思わないが、関西の天理大といういわゆるエリート校ではないところから、ともにB2でのプレーを経てきた2人も日本のトップチームの候補合宿に招集されているのも、不思議さを感じる。
それについて水を向けると川真田は「まず、徳島県(という小さな場所)から僕と西田(優大、シーホース三河)が選ばれている時点でなんか『すげえ』と思っているので」と話し始め、言葉を続ける。
「それと同じくらい『すげえ』ですけどね。天理大からはなかなかプロに行く選手も少ないのに、(在学時期が)かぶっている先輩と代表で一緒にできるというのは本当に嬉しいですし、このまま先輩と一緒に頑張りたいと思っています」
佐々木先輩と一緒にオリンピックへ行ければ最高
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2022−23から三遠に移籍。2023-24はPGながら攻撃的なスタイルで、チームの中地区優勝という躍進を支えた佐々木だが、プロ生活をB2・熊本ヴォルターズから始めた彼にとって代表候補になることなど、考えてもいことだった。
5月末に招集されたディベロップメントキャンプに続いて今回の代表候補者合宿にも残った佐々木が、こう言う。
「三遠に来る前はB2の熊本でプレーをしていましたし、その時には2、3年後に自分がこの場所にいるなんて思ってもいなかったので、今ここにいるということは僕だけじゃなくて、大野(篤史HC)さんや三遠のスタッフの力もあるので、そこは本当に感謝しています」
川真田はパリオリンピックのロスター入りの保障などないことは重々認識している。が、自身が選ばれた上で、さらに先輩の佐々木(佐々木が年齢では2歳上だが彼が在学中に留学をしたため卒常時の学年は1つ差だった)も選出されることになれば「最高」(川真田)だと述べた。
天理大といえば伝統的に男子柔道が強く、野村忠宏氏(オリンピック3連覇)、篠原信一氏(同銀メダリスト)、大野将平(同2連覇)などが有名だ。また女子ホッケーも強豪で、多くのオリンピアンを輩出している。
「そうですねえ」
柔道なら天理大出身で世界的なレベルの選手は多いが、と差し向けられた川真田は、そう反応した。
「柔道やラグビーは。バスケットは、関西じゃ強いですけど全国区じゃないので。このまま(佐々木)先輩と頑張りたいと思います」