「逆境に立ち向かうことこそがチームを成長させる」 就任1年目のライアン・リッチマンHCが三河を改革する
ブレーク明けの12月に入ってから、8連勝を含め10勝2敗でB1中地区の3位(17勝9敗)の位置につけるシーホース三河が、存在感を増している。
外国籍選手やアジア枠のイ デソンがよく機能し、かつ日本人選手も才能が集まるチームだけに、この成績は特段大きな驚きではないのかもしれない。
しかし、タレントだけで勝てるほど、B1は甘いリーグではなくなっている。
今季、ヘッドコーチに就任したライアン・リッチマン氏の指揮ぶりが奏功しているのではないか。
リッチマン氏は、NBAでアシスタントを、Gリーグでヘッドコーチの経験もあり、戦術にも長ける人物だが、選手たちのやる気を高めながらチームとして同じ方向を向かせる、優れた「モチベーター」なのでないかと、彼の言葉から感じる。
前日の敗戦が明けた12月31日の横浜ビー・コルセアーズとの2戦目。三河は、とりわけディフェンス面で力量を発揮し、前半のビハインドから逆転。最後は89-72と快勝を収めた。
試合後の、リッチマンHCの言葉は熱かった。
「我々は第3クォーター残り5分の時点で8点負けていたがタイムアウトを取って今一度我々のすべきことを確認した。そして選手たちはそれによく応えてくれた。すばらしかった。これこそが、逆境に立ち向かうということ。逆境を避けるのではなくて、むしろ逆境に立ち向かうこと。それこそがチームを成長させるもの。だからこそ私としてもチームを誇りに思う」
28年もの長きにわたってHCを務めた鈴木貴美一氏が辞任し、三河はその後任としてリッチマン氏という海外からの若い人物を招聘した。上述したように同氏はNBA経験もある有能な指導者ではあるが、日本特有のバスケットボールスタイルや選手たちの特徴、NBAとBリーグが準ずるFIBAルールの違いなどへの順応には、相応の時間がかかった。実際、ブレークまでの戦績は7勝7敗だった。
一方で、リッチマンHCの就任によって、練習の進め方などさまざまな面でチーム運営に変化がもたらされたという。シーズンはまだ半ばにすらさしかかっていないものの、彼のバスケットボールはチームにより浸透し始め、それが昨今の高い勝率につながっているのではないか。
前述の31日の試合後、チームには「勝つ文化」「勝つ精神」がより醸成されてきているかと問われると、リッチマンHCはこう答えた。
「我々は本当にハードに練習をする。彼らにとって練習は試合よりもきついとすら言えるもの。そしてわれわれはそこを自負している。私の体制下では1年目で、まだまだ様々なことを積み上げている最中で、勝つために何が必要かを学んでいるところ」
「選手たちにはそれぞれ仕事がある。たとえ守備で相手にシュートをミスさせたとしても、チームとして連動することに集中しなければならない。昨日はそれができていなかったが、今日はすばらしかった。彼らはどこにシューターがいるかを把握していたし、とりわけ後半は、彼らにドリブルを強いていた」
「我々は今、勝つ文化を構築している最中だ。それには時間がかかる。近道はなく、必死に務めるしかない。私は過去に、ラッセル・ウェストブルックやポール・ピアースといった世界最高峰で将来の殿堂選手たちと働く機会に恵まれていた。だけど私は選手たちにはこう伝えている。成功の方程式や秘密があるならば教えてあげたいがそれはなくて、毎日ただひたすらハードに練習するしかないんだと。それこそが『カイゼン(改善)』なのだと」
リッチマンHCが言うように、まだチームづくりは道半ばなのだろう。だが、彼のいう「逆境に立ち向かう精神」が真に選手たちに浸透していけば、どんな強豪相手にも伍して戦うことができるだろうし、ポストシーズンでのより高いシード順位も狙えるチームへと進化していくかもしれない。