自身が18、9歳の時何をしていたか。スポーツに限ったことではないかもしれないが、光を放ち夜の衆目を集めるのを目撃する時、年長の我々はそんなことを思ったりはしないだろうか。
例えば、国士舘大学の学生だった原修太の場合。ファミリーマートでアルバイトをしていたそうだ。しかも、夜勤を週に3日も。Bリーグが存在すらしておらず、日本のトップリーグが今のように盛り上がっていたわけでもないから、「彼」の今の置かれる立場、経験していることを想像することすら容易ではない。
「彼」とは1月にプロ契約の特別指定選手として千葉ジェッツに加入した瀬川琉久のことだ。4月16日。ホーム・ららアリーナ東京ベイでの宇都宮ブレックス戦で、18歳のポイントガードはキャリア初の先発出場を果たした。踏みしめるコートはできたばかりの豪奢なアリーナ。この日の監修は1万人を超えた。本来の正PG、富樫勇樹を始めガード陣にケガ人や体調不良者が続出しているとはいえ、その年齢でこんな経験ができる者がどれだけいるのか。
試合は、手負いの千葉Jが東地区優勝を決めたばかりの宇都宮に85-79で勝利した。瀬川は25分17秒の出場で8得点、1アシストを記録した。
瀬川の声を取ることはできなかったが、この日、故障から復帰した渡邊雄太は「ボール運びは安心して任せることができる」と新鋭のプレーぶりを評した。
瀬川が宇都宮を相手に記録したターンオーバーの数はわずか「1」だった。渡邊の言葉を補強するものだ。もっとも、プレーぶりを見ていると、当たり前のことなのだがまだ粗さが目につく。いや粗いというよりも、慣れていないというほうが正鵠を射ているだろう。
無論、慣れに関しては文字通り慣れていけばいいだけのことだ。プロスポーツの世界において経験ほど尊いものはない。それが練習ではなく、試合において得られるものならばなおさらだ。
試合後に取材に対応した千葉Jのトレヴァー・グリーソンヘッドコーチと渡邊ら選手は軒並み、瀬川がその年齢とは思えないほどの精神性を有していると口を揃えた。
「まだ彼の技術や成熟度を伸ばしていかねばなりませんが、私が彼についてすばらしいと思うのが尻込みをしないところです。彼はチャレンジを求めます。相手が誰であろうとです。(今日の試合では)DJ・ニュービルと対峙することもあり、1度、彼にやられてしまっていましたが、18歳だというのに怖れを見せませんでした」
グリーソンHCはそう述べた。渡邊も指揮官に同調しつつ、こう語った。
「練習でもそうですが、試合でもどれだけ相手にプレッシャーをかけられても、激しく来られても常に冷静に対応していますし、自分のところで(得点を)決められたら、次は『俺が決め返してやる』というメンタルを持っています。なかなか日本人では珍しいタイプかなと思いますし、(富樫)勇樹も言っていますけど、自分たちが18歳の時から考えたらちょっと信じられないくらい。僕らとは比べ物にならないレベルにいると思います」
瀬川はこの試合中、ニュービルや比江島慎とマッチアップする場面もあった。前者は32歳。後者は34歳。ともにBリーグのMVP獲得経験者だ。そもそも少し前までは18歳、19歳がトップリーグに挑戦するというのはなかば絵空事だった。瀬川が海千山千の、リーグ最高峰のプレーヤーたちと対峙する画というのはそれほどに大層なことなのである。
チャレンジを享受し、ミスを怖れない精神性
原は瀬川にしても、瀬川と同学年で昨日まで千葉Jのユース特別枠選手としてプレーをした関谷間にしても、「いい意味で生意気というか、『自分でやりたがる感じ』がすごくいい」と柔和な笑みをたたえながら10代の選手について述べた。
31歳のベテランは、瀬川らがミスをした後にもう1度、同じようなプレーをしかける鼻っ柱の強さについても触れる。「ミスをしたら出られなくなる」と自身が若い時ならばできなかったであろうと彼は話した。
「それをやれる気持ちの強さ、決めきるスキルの高さは本当に18歳には見えない。もっともっと、尖っていってほしいなと思います」
原はこう付け加えた。
身長184cmで体重84kgとその歳にしてはすでに立派な体躯を持つ瀬川。宇都宮との試合ではディー・ジェイ・ホグの15本に次ぐ11本のフィールドゴールを放っている(成功はすべて2Pによる4本)。特別指定選手制度を利してBリーグでプレーをする選手は多いものの、若い選手でここまで多くのシュートを放つことができるという例は少ないはずだ。瀬川の恐れ知らずのプレーぶりの一端を示したと言っていい。
東山高校時代にはインターハイ優勝に導くなど、全国的にその名を轟かせた瀬川。千葉Jでのプレーをステッピングストーンに将来はNBA入りを目指すというのだから、能力が高いに違いないし、またそうでなければならないはずでもある。
が、これほど早く、これだけ多くの時間、彼がコートに立ち、その力量の片鱗以上のものを見ることができるとは思わなかった。