遠い昔のことではない。昨季の悔しさは自分たちを突き動かす原動力だと語るテーブス海
アドマイティスHCが前年のCS敗退は過去のことだとする一方で、司令塔は「モチベーションを持ってコートに立つのは自分たち」だと言う
胸が引き裂かれるほどの悲痛な空気は、映像からでも伝わってきた。
映像とは、アルバルク東京の公式YouTubeチャンネルで流れた昨シーズンのチャンピオンシップ(CS)・クォーターファイナル終了後の様子だ。
場所は有明コロシアム。シリーズは最終3戦目での激闘の末、対戦相手の琉球ゴールデンキングスがわずか1点差(58-57)で勝利した。
映像はロッカールームへ続く階段を登り始める前にライアン・ロシターが両手を膝に着く場面を映した。逆転のフローターを外した彼の目にはおそらく涙が滲んでいた。
ロッカー内では、レオナルド・メインデルが両手を顔で覆った。彼の場合は、明確に泣いていた。その様は、慟哭と形容してもいい。
4月26日、代々木第一体育館。A東京は川崎ブレイブサンダースとの連戦の初戦に勝利したことで、CSクォーターファイナルでのホーム開催権を確保した。残るは3試合。同チームが前年のあまりに苛烈だった終幕をより強く思い返し始めたのではないかとも思われた。
そしてあるいはそれが、チームが残りの試合において眼前の相手を倒すということに対する集中を削ぐものになってしまわないかという気もしないでもなかった。
しかし、A東京のデイニアス・アドマイティスヘッドコーチはそれを一笑に付して、こう話した。
「(集中の妨げになるなどと)そんなことは思いません。必要なのはここからどうするか。私たちは(昨シーズンのCSで)なぜ敗れたのかを分析しましたし、見ているのは次にどうするか。それにあのシリーズはかなり前のことで、選手たちも何が問題だったかはわかっています」
ただ指揮官がそうは言っても、まだ「そうなのか」と消化しきれないものがあった。A東京は2023-24のレギュラーシーズンでB1 2位となる48勝12敗(東地区2位)という好成績を収めたはしたものの、彼らの1年はプレーオフにおける「たった」3試合の激闘をもってなかば突如、終わってしまったからだ(無論、それはどのチームにも公平に起こりうることではあるのだが)。
彼らや彼らを応援する者にとって、その敗戦は澱のようになかなか流れ去ることのないものだったはずである。
大事なのは「今」と「コンディション」
先述したロシターのフローターをお膳立てするパスを出したのは、正ポイントガードのテーブス海だった。
テーブスは1年前のCSでの敗戦が今シーズンを戦う上での原動力になってきたとし、「この終盤、みんながそこを思い出す必要もあると思う」と話した。
「常に過去を振り返る必要はないとは思いますけど、あそこで負けた理由っていうのは必ずあります。ヘッドコーチは今すべきことにフォーカスする必要があると言うとは思うんですけど、悔しい経験とか気持ちというのをモチベーションにしてコートに立つのは選手なので。それをモチベーションとして使うぶんにはまったく問題はないかなと思います」
アドマイティスHCが昨シーズンのCS敗退を「かなり前」のこととするのも、もっともなことでもある。選手やスタッフの入れ替わりがあり、今年は今年のチームとして戦っているということもできるからだ。
「考えることは今。今こそが最も重要なことです」
同HCはそう話した。彼は戦略、戦術もさることながら選手たちがケガなく良いコンディションを保ちながら、かつ精神的にタフさを持ってCSに入ることが肝要だと強調する。
そこにおいて、テーブスも指揮官と同じ気持ちだ。
「やっぱり健康じゃないとコートに立てないし、どれだけバスケットの細かいところを遂行しようとしても万全な状態で試合に臨めるかというところなので。他のチームの主力選手がケガをしているというニュースなどを見ましたが、本当に残念なことですし、(僕らも)そうならないように(気をつけたいです)」
テーブスの言う主力選手のケガとは、千葉ジェッツの富樫勇樹や琉球の岸本隆一のことを指しているはずだ。
A東京は5月3日、4日のサンロッカーズ渋谷戦をもってレギュラーシーズンを終了し、次週よりクォーターファイナルを戦う。
同ラウンドでは千葉Jとの対戦となる。昨CSとは異なる相手ではあるものの、A東京にとっては「雪辱」の舞台となるに違いない。