アルバルク東京の好調の陰で苦悩する日本代表戦士・吉井裕鷹
今夏のFIBAワールドカップではフィジカルなプレーぶりで日本代表の躍進に寄与した男だが、Bリーグでは選手層の厚いチームで出場時間を増やせていない。
ぶれない、とでも言うべきか。日本代表での活躍を経ても、吉井裕鷹という男の独特な無骨さに変化は見られない。
もっとも、自身に対して感じるもどかしさのようなものが、その無骨さが変わらない一因になっているようでもある。
「ここまでは悔しい結果に終わってるんで、もっと頑張らないとと思っています」
現在、3週間のブレーク期間中のB1。アルバルク東京はここまで勝率1位(13勝1敗)とトップの戦績で来ており、好調だ。24日にはメディア向けの公開練習が開かれ、チームの雰囲気の良さが伝わってきた。
その中で、吉井の表情が険しい。従前からそういう男だとは認識しながらも、試合日ならともかく、練習の日でそのような様子だったことに多少、意表を突かれる。
彼のフラストレーションもわからないではない。日本代表では、相手に体を当てることを怖がないスタイルでトム・ホーバスヘッドコーチから信頼を受け、今夏のFIBAワールドカップではチーム5位の平均20.6分の出場時間を得ながら、今季、アルバルクでは平均10.55分のそれにとどまっている。同15.43分だった2022−23シーズンと比べても5分近くベンチに長く座っていることになる。
「先を見てもしょうがない」
スモールフォワード登録になってはいるものの、吉井はその当たりの強さによるディフェンスの良さからパワーフォワードでの起用も多い。しかし、アルバルクにはライアン・ロシター、セバスチャン・サイズ、アルトゥーラス・グダイティス、レオナルド・メインデルとインサイド系の選手(ロシター、メインデルなどはアウトサイドでもプレーする)が多く、出番がなかなか巡ってこない。
平均得点は昨季の3.1点から1.6に、リバウンドも同1.7から1.5となるなど、出場時間の減少で数字も軒並み落ちている。
「もう誰が見ても僕自身の結果としてはそういう風になってしまってますから」
チームが好調でも自身としてはモヤモヤがあるのではないか。そう問われると吉井はそう答えた。
「そこにフォーカスしすぎてもしんどいので、僕自身が課題としているところを克服しながら、チームが勝つことを最優先する。それだけです。もうそれ以上はないです」
「もうそれ以上はないです」という言葉に、彼の苦悩が凝縮されているのではないか。
吉井は、個人練習の時間帯ではスキルコーチとアシスタントコーチを兼ねる田中亮とのマンツーマンでシュート練習に取り組んでいたが、シュートフォームが以前とは少し変わっていた。実際にそうなのかと本人に聞くと、そうだと返してきたがこのやり取りでも多くは語らない。出てきたのは「スムーズに打てるように」という大雑把な意図くらいだった。
来夏のパリオリンピック出場への思いについても「今はないです」と言うだけだ。そして先の「もうそれ以上はないです」と同様の「どんな質問をされてもあれなんですけど」と前置きして、無骨にこう続けるのだ。
「先を見てもしょうがないので。もうチームが勝つために(やるだけです)」
もちそん、メディアに思いのすべてを打ち明ける必要はない。雄弁であるべきはあくまでコートでのパフォーマンスであるべきだ。吉井は、その機会を欲しているにほかならない。
日本代表での活躍でも浮かれることなく、あくまで「吉井裕鷹」であり続ける25歳。彼の苦悩が今季、晴れる時は訪れるか。