アメリカから戻ってきた田中力はビー・コルセアーズでどんな化学反応を起こすか
かつて横浜のU15チームに所属した男が帰ってきた。NCAA主要リーグ所属大学のオファーがありながら事がうまく運ばないなど苦しい時期もあった。その経験を「ルーツ」のあるチームで爆発させる。
横浜ビー・コルセアーズが27日、田中力と特別指定選手契約(プロ契約)を締結したことを発表した。
これははたして、同チームにとってどのようなことを意味するのだろうか。
2002年生まれで現在21歳の田中は、横浜BCのU15チームでプレーし、2018年の「B.LEAGUE U15 CHALLENGE CUP」では優勝メンバーとなり、自身はMVPを獲得している。
その後、世界の有望選手が集まる米フロリダ州のプレップスクール、IMGアカデミーに入学。その後は米ハワイ州のカフク高校、米インディアナ州のベテル大学でプレーしている。この夏からは横浜BCの練習生としてトップチームの練習に参加していた。
渡米時には、米NCAAの1部校でのプレーを目標として挙げていた田中は5大主要リーグ「パワーファイブ・カンファレンス」校のユタ大学からのオファーも受けたが、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、機会を逸してしまっている。
しかし、2017年には史上最年少の15歳で日本代表候補に選ばれてている田中が、非凡な才能を秘めていることは確かだ。
この段階で、具体的なことを断言できるほどの材料は多くない。アメリカではポイントガード(PG)としてもプレーしてきた田中も、28日の入団会見ではポジションについては司令塔なのか、あるいはシューティングガード(SG)での起用になるのかは不明であると話した。
ただし、青木勇人ヘッドコーチは田中について「爆発力や1対1でしっかりスコアまでつなげてくることに関してはものすごいう能力を持っている」評しており、ボールハンドラーを任せることはあっても、ゲームマネジメントをするPGというよりは、得点力に期待したSGとしての起用が有力だろう。
竹田謙ゼネラルマネージャーも「ドライブで切り込んでプレーをクリエイトする力はすでにBリーグの選手と同等のレベルにあるんじゃないか」と田中について述べている。
竹田氏は、田中のディフェンス力についても「1対1においてリーグで通用するようなフィジカルの強さや体の当て方、うまさは持ち合わせている」と踏んでいる。
実際、筆者も会見で久々に田中の姿を間近で見たが、IMGアカデミー入学前と比べても体が大きくなり、しかし引き締まってもいて――現状では見た印象で判断するしかないが――外見上は速さと強さを兼備した選手のように感じられた。少なくとも、個の力量を見た時、攻守において戦力となる可能性は十全に秘めていると感じる。
河村勇輝との共闘は「楽しみでしかない」
気がかりなのは、田中の3Pシュートの能力だ。アメリカへ渡って総じて試投数は増えた印象で、かつ調子の良いときには確率よく入っているが、安定感があるとは言えない。
チームは長距離シューターの大庭岳輝を右ヒザ前十字靭帯損傷(10月20日に全治6〜7か月と発表された)で失っているものの、田中にシューターの役割を担わせるのではなく、その穴は別の形で補うしかない。
楽しみなのは、河村勇輝とコートを共にした時にどのような化学反応が起こるかだ。2人は2018年開催のFIBAのU16アジア選手権で共闘しており、この時で田中は富永啓生(現ネブラスカ大)に次ぐ、平均15.2得点をマークしている。
田中は河村とのプレーについて「そこは楽しみしかない。絶対に良いコンビになれると思います」と話している。もっとも、2人とも当時から体格もプレースタイルにも変化があり、具体的にどんなものが生まれるかはやってみないとわからないところがありそうだ。もし物事がうまく運べば、リーグ屈指のスラッシャーを備えたバックコートを形成するかもしれない。となれば、見るファン側にとっても魅力が増す。
ただし我々も、まだコートに立っていない田中について少し冷静になる必要があるかもしれない。青木HCも田中のポテンシャルの高さは認めた上で、彼がすぐに多くの出場機会を得て力量を発揮できるかといえば「そんなに簡単な話じゃない」と釘を刺す。
「周りの選手も自分のプレータイムを競争で勝ち取ってるので、しっかりを試合に勝つ準備をして、その中でどう彼を活かせるか、考えていきたいなと思います」(青木HC)
中はアメリカの強豪大への進学が叶わないなど、いくつかの壁に当たってきた。そうした経験は自身を人として成長させたと田中は語る。
蓄えたエネルギーを、果たしてユース時代を過ごした「ビーコル」のトップチームでどこまで爆発させることができるか。見ものだ。